「今の価格では思うようにお米を買えない方々に対して、少しでも心置きなく必要な量、十分な量を購入いただけることを期待している」
昨年11月21日の閣議後会見でこう語ったのは鈴木農林水産大臣(43)だ。米価の高騰対策として政府が推奨しているの“おこめ券”。12月16日に成立した政府の補正予算では、物価高対策として「重点支援地方交付金」が2兆円拡充された。そのうち4,000億円を食料品価格高騰に対応する特別加算とし、これは1人当たり約3,000円相当を利用できる計算となる。
鈴木農水大臣は“おこめ券”事業を推奨しているようだが……。
〈あの人(鈴木憲和農相)は所詮、官僚側の人。生産者への助成にあてて欲しい。生産者の手取りが増えなければ、継続的な生産につながらない〉(北陸地方の生産者)
〈なぜおこめ券を配布するのか、理解ができない〉(関東地方の生産者)
本誌が全国のコメ農家に取材したところ、こんな声が。おこめ券は、あくまで一時的な物価高対策の域を出ない。その配布に対しては、生産者からも消極的な意見や疑問の声が上がっている。
■農家が一番危惧するのは“消費者のコメ離れ”
コメ高騰が長引くことで「収入が増えた」と喜ぶ生産者はおらず、むしろ、ほとんどの農家が危機感を持っている。
〈コメが高騰したといっても、私どもでは1~2割ほどの増収です。たしかに収益は増えましたが、私たちは、農協(JA)に5kgあたり2,500円程度で卸しています。現在、スーパーで売られているコメ価格が5kgあたり4,331円ということは、農協や卸業者に卸したコメが、いくつかの業者を経ていくうちにつり上がっていると考えられます。これこそが、コメ高騰の大きな要因だと思います〉(北陸地方のコメ生産者)
〈昨年は、(売ってもらえる)『コメがないか』と遠くから直接訪ねてきた業者も。うちはそんな見たことも聞いたこともない人に突然コメを売るわけにはいかないと断りましたが、この状況では、『100円でも200円でも高く売れればいい』と考えて、売ってしまう生産者がいてもおかしくはない。日本人の主食であるコメを、投機目的で商売をする業者が現れている。それが高騰を招いたと思っています〉(東北地方のコメ生産者)
コメ高騰の原因は、庶民の需要につけ込んだ流通にあるという意見が複数寄せられた。主食を狙って価格を釣り上げる悪質な体制が改善されなければ、<このまま日本人の“コメ離れ”が加速し、さらに減反の方向になってしまう>と危機感を募らせる生産者も……。
〈5kgあたり3,500~4,000円くらいが適正だと思います。これ以上だと、消費者のコメ離れがおきてしまい、コメの需要が減少し、将来的には価格も下落していく。ますます生産者の経営が苦しくなるばかり。水田を手放す人が多くでてくるでしょう〉(東北地方の生産者)
■増やす?減らす?政府の方針に戸惑う生産者
さらに生産者から戸惑いの声が相次いでいるのが、結局コメの生産を増やすのか?減らすのか?前政権からの急な方針転換だ。
高市早苗首相(64)は昨年12月8日の衆議院本会議で、今後のコメ政策について「国内主食用、輸出用、米粉用など『多様なコメの増産』を進める」と明言した。しかしながら、農林水産省は令和8年産の主食米の生産量を、需要見通しの上限と同じ711万トンとしている。
令和7年産の予想収穫量が746万8,000トンなので、「来年は36万トン少なく生産する計画」ということになる。鈴木大臣は「需要に応じた生産が原理原則」を強調するが、コメが高止まりしている状況にも関わらず、令和8年度は実質的に“減反”となるのだ。
前石破政権下で当時の小泉進次郎農水大臣(44)のもと、米の増産の方針が示されてから、半年に満たないなかでの急激な政策転換。農家の戸惑いは大きい。
〈うちら農家は、年単位で“土台”を決めて、作物を育てていくわけですよ。それが、1年もしないうちに「増産」から「需要に応じた生産」へと、コメ政策が転換されると“土台”が崩れてしまい、長期的な経営計画が立てられない。これでは、日本の主食であるコメ文化が守られるとは思えない。コメ農家は続けていけない〉(関東地方の生産者)
生産者が大切にしていることは、日本人の主食であるコメ文化を守ること。それゆえ生産者が髙市政権に求めるのは、“消費者のコメ離れ”を防ぎ、かつ長期的ビジョンを見据えた農政だ。
果たして、鈴木農水大臣は生産者の切実な声を取り入れて、日本の未来を見据えた農政をしてくれるのだろうか? “おこめ券”以外の今後の政策に期待したい――。
