このまま緊迫した状況が続けば、夏ごろから、私たちの心の栄養となる〝日常の楽しみ〟が制限されていくかも――(写真:ふじよ/PIXTA) 画像を見る

「3月28日から当面の間、臨時休業をします。理由は重油不足です。値上げだけで済む問題ではなく、病院などが優先になるとのことで、仕入れが困難な状況。再開の見通しも立っていません……」

 

こう語るのは、兵庫県にある日帰り温泉施設「こんだ薬師温泉ぬくもりの郷」の従業員Aさん。

 

ほかの業界でも影響が出つつある。つい先日は、飲食チェーン「サイゼリヤ」が鶏肉の供給不安定を理由に、一部メニューの取り扱いを休止すると発表した。燃料費の高騰や重油不足によって、サービスの存続ができなくなったり、値上がりが起こる。そんな事態が、私たちの日常のあちこちで少しずつ起き始めているのだ。

 

「イラン情勢を受け、サービスが突然なくなるというよりも、今まで気軽に楽しめていたレジャーや娯楽が、手の届きにくい“贅沢品”になってしまう。そういう状況が来るかもしれません」

 

こう話すのは、帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんだ。

 

家族との外食、銭湯でのリラックス時間、友人との旅行……。私たちの「ささやかな幸せ」は、今後どんな状況になるのだろう。冒頭でも触れた「銭湯(サウナ)」について、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんが解説する。

 

「銭湯はもともと薄利で経営しているところが多いなか、今回のイラン情勢悪化が致命的な追い打ちをかけています。銭湯の入浴料は各都道府県が上限価格を条例で定めているため、重油が高騰しても、経営者が自由に値上げできない構造になっているのです。また、原油不足はボイラーや配管の修理部品不足にも影響していて、老朽化した設備を直せないという状況も重なっています。閉店を余儀なくされる施設も増えるでしょう」

 

昨今ブームで人気が高まっているサウナも事情は同じだ。電熱式は電気代高騰の直撃を受け、重油を使うタイプはさらに深刻という。

 

「生ハム、チーズ、ワインを嗜み、おうちでイタリアン♪」という楽しみ方にも危機が迫る。欧州産がメインとなるこれらの食材は、これまで紅海・スエズ運河を通る最短ルートで輸送されてきた。しかし今、攻撃リスクの増加により、この海運がほぼストップしている。

 

「船がアフリカ大陸を迂回するルートへ変わり、輸送期間が約2週間~1カ月延び、輸送費も急騰しています。オリーブオイルや生ハム、ワインはすでに値上がりしていて、取り扱い休止も相次いでいます」(前出・飯島さん、以下同)

 

スペイン産の豚肉も、同様の理由で値上がり圧力がかかっている。そして楽しみの代表格であるケーキも、手が届かなくなる可能性がある。

 

「材料のうち、打撃が大きいのがいちごです。ビニールハウス栽培には温度管理のために大量の重油が必要になります。今の季節は露地栽培のいちごも流通し始めるので、影響は比較的小さいですが、冬には大きな影響が出るでしょう。今年のクリスマスケーキは大赤字覚悟で出すのか。特に街の洋菓子店は、価格転嫁で値上げすると客足が遠のきやすい。さらに厳しい状況になるかもしれません」

 

日本人になじみ深い「マグロ」などの魚も、楽しみづらくなるのではと予想される。

 

「かつてサンマが高級魚になったように、今まで気軽に手が出せた魚が消えていく。遠洋・沖合漁業の漁船は重油を大量に消費します。すでに『漁船を出しても利益が取れない』という状況が全国で広がっていて、マグロなど大衆魚の価格が今後大きく上がる可能性は十二分にありえます」

 

そして、影響は食べ物以外にも。流行の衣類を手ごろな価格で取り入れられる「ファストファッション」。メインの原料となるポリエステルやアクリルなどの化学繊維は、石油の副産物から作られる。

 

しかし価格急騰により、現在中国国内の繊維メーカーでは材料費を1日に1?2回更新するほどの激しい値動きに直面しているのだ。

 

「中国国内での影響が、日本に波及してくるでしょう。輸送コスト、エネルギーコストまで価格転嫁されていくと、早いところでは夏に、少なくとも今年の秋冬には値上がりが本格化すると予想されます」

 

定番だった「1990円」などの価格が維持できず、一段階上になってしまうかも……。

 

気づかぬうちに、身近な楽しみが遠のいていく。「また今度」が通用しなくなる前に、行きたい場所へ行き、食べたいものを食べ、当たり前を楽しんでおきたい。

 

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