■新しい女性の存在、B子さんの精神科入院
B子さんが両親にすべてを報告する少し前から、Wには新しい女性の影があった。スマホの位置情報を見ると、彼は頻繁に栃木県内のある場所を訪れるようになっており、休日にはデートでしか行かないような場所によく移動していた。
「Wさんのインスタグラムのフォロワーを確認すると、プロフィールにO市在住と書かれた女性のアカウントがありました。私はピンと来てアカウントを作ってフォロー申請し、Wさんのこれまでの行為を知らせました。その女性も独身偽装の被害に遭っていると思ったからです。女性からフォロー許可はありませんでしたが、しばらくすると、その女性の妹さんから連絡があったのです。姉がWさんとつき合っていることを心配したそうです。妹さんとのやり取りで、私の両親に謝罪して同意書にサインする前からWさんは女性と関係を持っていたことを知りました。『なんて男だろう』と私は愕然とし、こんな男に人生を狂わせられたのが悔しくなりました」
Wが既婚者と発覚してからずっと追い詰められていたB子さんは、ずっと不眠が続き、希死念慮が出現するなど、精神的に不安定になっていた。すでに妊娠8カ月で、お腹は大きく、身動きもままならない。シングルマザーとして子供を育てることもほぼ確定し、Wは、同意書の約束をいろいろと理由をつけて果たそうとしない。将来の不安も重くのしかかる。様々なストレスが一気に押し寄せ、B子さんはとうとう自殺を試み、10月初頭に精神科病院の閉鎖病棟に入院することとなった。
「20日間で病院を退院しましたが、今でもフラッシュバックの症状や悪夢に苦しめられています。Wさんからは、養育費をめぐるやりとりのなかで、『お前が育てるより、俺が育てるほうが子供も幸せかもな』などと暴言を吐かれました。彼に、子供を育てられる環境なんてないのに。彼はその後、養育費の話からも逃げて、私の連絡を無視するようになりました。産後に公正証書にサインするという約束も果たさないまま。今ではどこに住んでいるかもわからなくなりました」
そんな状況のなか、B子さんは2025年12月に女の子を出産する。
「赤ちゃんをかわいいと思えるか、正直不安でした。けれど産んでみると杞憂だったことがわかりました。今の心配は、将来子供が大きくなったとき、父親のことをどう説明するかですね。あとはこれから友人たちが結婚したり出産したりしますから、そのたびに辛い思いをするんだろうなと……」
出産後、所在がわからないため、Wの会社に内容証明を送ったところ、「自分がしたことを考えろ」「俺とあなたの関係は不倫だから慰謝料なんて発生しない」「逆に嫁から慰謝料が請求される」などと脅すようなLINEが立て続けに届いた。
「Wさんが逃げる気だと知ってから、私は自分でいろいろと調べて、独身偽装の被害者の経験や、性的自己決定権侵害の問題を知りました。だから、 “不倫になる”“慰謝料は必要ない”という脅しには屈しません。その場しのぎの嘘にも騙されません。現在、弁護士を通じて同意書の約束を果たし、養育費の増額請求にも応じるようにとWさんと交渉中です。相手が応じなければ、裁判も考えています」
今後、B子さんには果たしたいことがあるという。
「Wさんの過去の女性たちも、同じような目に遭っていた可能性があります。私に対してしてきたように、彼は嘘を繰り返して逃げてきたのかもしれないと思うのです。ここで彼を痛い目に遭わせないと、また同じことをするでしょう。新しい被害者を出すのを食い止めたいし、過去の被害者にも声をあげてほしいと願っています」
■「婚約不履行よりも悪質性は大きい」弁護士が解説
B子さんは「結婚しよう」という加害者の言葉を信じ、「未婚の母」となった。こうした独身偽装によって女性が妊娠・出産したケースについて、札幌弁護士会所属の猪野亨弁護士はこう主張する。
「相手が事実を知れば同意しないとわかっていながら関係を持つのは、性的自己決定権の侵害です。婚約不履行でも同様の状況になることがありますが、独身偽装は客観的にも偽りの意思や事実が明らかですから、その悪質性はより大きく、加害者の責任は重い。民事上の賠償責任はもちろん、刑事罰を科すことも必要だと考えます」
独身偽装は不倫ではなく、一方的な加害行為なのだ。
(取材・文:ウラノけいすけ)
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