■スーパーで販売されれば拡散を防げない
これまで日本は、米国産ジャガイモについて、ポテトチップスなどの加工用に限り、用途や加工施設などの条件を設けながら段階的に輸入を認めてきた。
しかし、生鮮ジャガイモがスーパーなどで販売されるようになれば、リスクは大きく変わる、と鈴木氏は指摘する。購入した人が家庭のプランターに植える可能性があるほか、ジャガイモに付着していた土や線虫が靴底などを介して畑へ運ばれることも考えられるからだ。
「だからこそ、生のジャガイモは水際で止めなければならないとして、農水省は何十年も必死に抵抗してきました。担当者のなかには、体を張って『自分は認めない』と輸入を止めようとして、左遷された人もいると聞いています」
それでも、輸入解禁に向けた協議が進んでいるのは、なぜなのか——。
鈴木氏は、米国からの要求を拒みきれない日本外交の構造が背景にあると指摘する。
「米国から日本への要求事項は山のようにあります。しかし、日本には、それを最終的に拒否するという選択肢が事実上ない。今年はどれとどれを差し出すのか、その順番を決めることしかできないような状況です」
生鮮ジャガイモについても、危険性が大きいため、日本側は長年、輸入解禁を先送りしてきた。だが、ついに抵抗しきれなくなったというのだ。
■「高市政権だから、いまがチャンスとみられている」
さらに鈴木氏は、今回、米国側が要求を強めた背景について、こう語る。
「高市政権は、これまで以上に米国の要求に忠実に従う姿勢を示しています。そのため米国も『いまがチャンスだ』と考え、圧力を強めたのでしょう。日本政府は、その要求に応じようとしているわけです。
また、トランプ大統領は中間選挙を控えていますから、そこで何らかの成果を示したいという事情もあるのだと思います」
農水省は「解禁が決まった事実は何らない」と説明する。しかし鈴木氏は、表向きは検疫協議中でも、米国側の要求を最終的に拒否できない以上、解禁へ向かう流れは事実上決まっているとみているのだ。
もう一つの懸念が、日本の食料自給率への影響だ。
線虫の侵入によって国内生産が打撃を受ける一方、安価な米国産ジャガイモの輸入が増えれば、国産品から輸入品への置き換えが進む可能性がある。
「国内生産が減り、安い米国産が大量に入ってくれば、ジャガイモの自給率はさらに下がります。コメでも、生産を減反で絞り込みすぎた結果、輸入が増え、国産米が輸入米に置き換わる事態が起きています」
国際情勢が不安定化するなか、いつまでも食料を安定して輸入できる保証はない。輸送路が途絶えたり、輸出国が自国への供給を優先したりすれば、食料を海外に依存する日本は大きな影響を受ける。では、私たちにできることはあるのか。
「生産者団体だけでなく、消費者が『自分たちにとっても心配な問題だから、輸入解禁は認められない』と声を上げることです。何百万人もの署名が集まるなど、国民全体の反対が大きくなれば、政治が動かされ、手続きを遅らせる可能性はあります」
仮に輸入解禁を止められなければ、販売前の検査の徹底や、購入したジャガイモを植えないようにする周知、圃場への立ち入り管理など、防疫体制をこれまで以上に強化しなければならないという。
「今回も、自分たちが食べるものを国内で作る力を弱め、輸入に依存せざるを得ない流れを強めようとしています。その先にあるのは、何かが起きたときに、子どもたちの命を守れない国です」
生鮮ジャガイモの輸入解禁は、単なる一農産物の市場開放ではない。日本の食料を誰が、どこで、どのように作り、守っていくのか。私たち一人ひとりに突きつけられた問題でもある。
