山崎豊子の同名小説が原作で話題の『運命の人』(TBS系)。第7回のクライマックスでは、真木よう子演じる三木昭子事務官と、本木雅弘演じる毎朝新聞の記者弓成亮太が一審判決を受けるシーンが繰り広げられた。このドラマは’72年、沖縄返還にまつわる外務省機密文書漏えい事件がモチーフ。登場人物には実在のモデルが存在する。
読売新聞本社会長で主筆の渡邊恒雄氏が大森南朋演じる山部一雄記者について、「事実と違う」と怒り、主人公弓成亮太のモデルである元毎日新聞の西山太吉氏まで不信感を表すなど、物議をかもしている『運命の人』。しかし、記者に機密文書を渡した女性事務官H・Kさんの声は伝わってこない。
それもそのはず、この件でHさんは有罪判決を受け、仕事と家庭、すべてを失った。失意のもと、事件が風化するのを待つかのように潜行生活を続けてきたのだ。本誌は、事件後、沈黙を守り続けているHさんの暮らしぶりをキャッチした。
冬の日の午後、約30坪の敷地ギリギリに建つ古い二階屋を訪ねると、毛糸の帽子をかぶりウインドブレーカーを着た痩身の男性が顔を見せた。廊下を挟んで左側は台所のようで、開け放したドアの隙間から、食材が詰まったスーパーのビニール袋が見える。
「このとおり、いま食事の支度をしようというところで。彼女に食べさせなければならないから。彼女は心臓を患い、入退院を繰り返しています。肺炎や腎臓も悪くしていて、長年のリウマチも悪化して歩けないし、満身創痍ですよ。もうお話しできる状態ではありません。外務省を懲戒解雇にもなった。もうみそぎはすんだんです」
Hさんは現在、要介護2とのことだが、ヘルパーも頼まず再婚した夫と2人だけの生活を送っているという。話している途中も「忙しいから」と家の中を気にする様子。ご主人がHさんを献身的に介護していることがうかがえた。Hさんは今年9月で82歳になる。