「復興予算は届きません。何もかも流されてしまった自分たちに一部負担金はとても払えないのです」と苦渋の表情で語るのは、新おおつち漁協組合組合長の下村義則さん。復興予算の流出が次々と明るみに出るなか、対照的な出来事だったのが岩手県の旧大槌町漁協の経営破綻のニュースだった。
旧漁協は、震災で市場が全壊。所有していた6隻の定置網船のうち2隻を消失。残った4隻も十分な稼働ができず、水揚げ量は激減し今年1月、再建を断念。15億5千万円の負債を抱え10月に破産申請をした。政府は5年間で復興予算19兆円を投じる方針を発表したが、すべてを流された被災地の漁協に復興予算は届かなかった。
「いまは新たに購入した1隻の定置網船だけで稼働しています。防波堤は崩壊したまま、海がしけると波が直接漁港に打ちつける状態です。さらに漁港は1メートルも沈んだままで、補修もされていません」(下村さん)
旧漁協は震災後、県などに支援を要請したが震災前からの債務を指摘され、「破れた袋に金は入れられない」と切り捨てられた。国の補助金を受けるには、制度上1〜2割の自己負担金を払わなくてはならない。これが払えず、被災地の企業なのに援助を受けられないケースは多いのだという。
「被災した方たちにお金を集めろというのでしょうか。金融機関はお金を貸し渋るでしょう。こうしたケースを救済するために計上された19兆円という復興予算は被災3県には届かない。こんなおかしい話があるでしょうか」
そう憤るのは経済ジャーナリストの荻原博子さん。昨年7月、政府が定めた基本方針の中に『震災を教訓として全国的に緊急に実施する必要性が高く、即効性のある防災等の施策』を行うとの文言が盛り込まれた。それにより予算を全国で流用する抜け穴ができ、被災地復興とは無関係なものまでに復興予算が流用される結果となった。
「各省庁はシロアリのごとく復興予算に群がりました。私たちは被災した方々が一日も早く立ち直るため復興税を受け入れたのです」と荻原さんは言う。国民の思いとは裏腹に流用された復興予算。前出の下村さんもこう漏らす。
「怒りはあるけど、あきれてしまって諦めている。東北人は思っていても口に出して言わないんです」
破綻した旧組合に代わって新おおつち漁協組合ができたが、800人いた漁師の廃業が相次ぎ280人に。負債はなくなったが設備もないので、金融機関から運転資金を借り、ようやく市場は再開した。
「12月16日に総選挙が控えています。どこが勝とうが、今のように私たちの血税が被災地に届かず、途中で復興以外の用途に使われるということは、あってはなりません」(荻原さん)