「あのシーンはオンエアで初めて見ました。『愛の讃歌』の使い方は見事でしたね。演出もカメラワークも見事でした」
こう語るのは、連続テレビ小説『花子とアン』で、ナレーションを担当している美輪明宏さん(79)。数々の名シーンや名ゼリフが話題になったが、なかでも最も反響を呼んだのが、蓮子(仲間由紀恵)と龍一(中島歩)が駆け落ちを図るクライマックスシーンだ。
その回(7月18日OA)は、美輪さんの決めゼリフ「ごきげんよう、さようなら」がなく、蓮子と龍一が羽根の舞う街灯の下で抱き合う感動的なラストシーンまで、美輪さんの名曲『愛の讃歌』がフルコーラスで流されるだけ。それは、美輪さんがシャンソン歌手、エディット・ピアフの原曲をほぼ直訳した形で、’68年にレコーディングした日本語バージョンだった。
約4分間、蓮子と龍一のセリフはいっさいなく、2人の愛の絆を映像と歌だけで演出するという、まさに斬新なシーン。そのインパクトに、視聴者の目はくぎ付けとなり、すぐさまネット上では“朝ドラ史上最高の演出”との称賛の嵐が巻き起こったのだ。美輪さんは言う。
「最初に台本をいただいたとき、蓮子と龍一の駆け落ちシーンの大体の描写があって、そこに『愛の讃歌』の歌詞だけが書いてありました。私は2人のセリフがまったく書かれていなかったので、正直“エ〜ッ!?”と思いました。ただ、私は余計なことを言う立場ではないし、必要もない。それをやったらマナー違反になりますからね。だから、いっさい何も言わないで、オンエアに期待をしていたんです」
そして、自身が歌う『愛の讃歌』がフルコーラスで流れるシーンをご覧になった美輪さんは……。
「私自身がいちばん驚きました(笑)。駆け落ちシーンのカッティングの仕方、つなぎ方、そして曲の入れ方が実に見事でした。こうなることをすべて想定していた、脚本家の中園ミホさんの想像力はお見事でしたね。中園さんは、この『愛の讃歌』をいつかどこかのシーンで使おうと思っていたそうですよ」
近年、美輪さんは『愛の讃歌』を歌う前に、日本語で歌詞の説明をしてから、フランス語で歌っていた。しかし今回の放送後、“日本語バージョンが聞きたい!”との要望が殺到。その反響のすごさから、今月から始まったコンサートでは、15年ぶりに日本語バージョンが復活したそうだ。