隔週連載《中山秀征の語り合いたい人》。今回のお相手は、日本を代表するアナウンサーでありながら、肩肘を張らない自然体なたたずまいが魅力的な加賀美幸子さん(74)。’63年にNHK入局。以来ジャンルを問わず活躍し、’00年の退職後もフリーアナウンサーとして精力的に活動を続けている。
中山「加賀美さんから見て、最近の女性アナウンサーの傾向はどう思いますか?’80年代以降アイドル化しているような部分があると思うんですけれども」
加賀美「私は、親しみを持っていただけるのであればアイドルのようであってもいいと思います。でも、言葉がちゃんとしていたり、しぐさやたたずまいに品格があったり、そうしたアナウンサーとしての基本があるうえでのアイドルでなければ、番組の伝達者として意味がないのでは?」
中山「あくまでもアナウンサーなわけですもんね」
加賀美「ええ。最終伝達者であるアナウンサーの伝え方次第で、みんなが一生懸命作ってきたものを駄目にしてしまう可能性もあるし、逆に付加価値を付けることもできる。ですから、現在なさっている方もこれから目指される方も、豊かに言葉を持ち、言葉の意味と内容と心をしっかり捉えながら表現できる、“付加価値を付けられる”アナウンサーになってほしいです」
中山「その表現力を磨く勉強におすすめのものってありますか?」
加賀美「勉強と思ってほしくないんですが、古典を読んだり、原文朗読したり。とにかく古典は面白いし楽しいし、人生得をします」
中山「古典ですか……。初心者は何から読んだらいいですか?」
加賀美「『源氏物語』は人物描写、『枕草子』は観察力、『徒然草』は生き方。そのほかどの作品も魅力的ですよ。それらが書かれた時代は、紙が大変貴重で特別な人しか手に入りませんでした。みんなが目で本を読むようになったのは19世紀に入ってから。それまで多くの人は、耳だけで聞いていたはず。ですから、もともと古典は聞いてわかりやすく書かれているので、声に出して読むととても優しいんですよ」
中山「なるほど声に出して読む“読み物”なんですね」
加賀美「今のアナウンサーは、みなさん美しく魅力的です。でも、その人ならではの不動の魅力を身につけてほしい。言葉の心と言葉の力で、さらに魅力的なプロになってほしいと思います」
中山「逆に考えればチャンスですね。かわいくて、奥行きがあったら鬼に金棒ですから」
加賀美「まさにそう!ビックリしました。私もあちこちで古典の話をしていますが、常々『古典を読んでいたら鬼に金棒』って言っているんです」