「彼女は昨年4本の映画に出ています。脇役ですが、全部主役を喰っている。『母と暮らせば』ではあの吉永小百合さん(笑)。『真田丸』は例によって助演の貧しい娘の役ですが、長澤まさみさんも喰われるなと思って見ています」
そう語るのは、黒木華(25歳)の出身大学の恩師で映画評論家の寺脇研教授。『真田丸』で信繁の初恋の相手・梅を好演中の黒木。今春には映画と連ドラで初主演も務める。彼女が最初に脚光を浴びたのは2014年、山田洋次監督の『小さいおうち』で第64回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した日だった。それも日本人最年少。コラムニストの桧山珠美氏は言う。
「この映画で、これほど白い割烹着が似合う20代がいるのか、と驚いた。“懐かしの昭和顔”が彼女の大きな武器。朝ドラ『花子とアン』(NHK)の花子の妹・かよの真っ黒にした農家の娘の汚れっぷり。名前は『華』があるのに本人に『華』がないと思っていたら、役に入れば『華』がある不思議な女優。大竹しのぶ以来の、けっして美人女優とはいわれない本物の演技派女優だ」
黒木は大阪府出身。映画好きの母の影響で、幼少期からよく映画を見ていたという。高校受験前に「演劇がやりたい」と母に直訴し、演劇に実績のある大阪府内の名門進学校に入学する。彼女の大きな転機となったのは、劇作家・野田秀樹氏との出会いだった。
「彼女が高校在学中、初めて生で観た演劇作品が松たか子主演の野田作品『贋作 罪と罰』。この舞台の迫力に触発され、京都の大学に進学後、野田さんの演劇ワークショップのオーディションを受けた。その後、別作品のオーディション(『表に出ろいっ!』)で野田さんが半年ぶりに彼女に会ったとき『伸びしろ半端なかったよ!』と驚愕していました」(舞台関係者)
この作品でヒロインに抜擢されたことで、現在の事務所に所属。徐々にテレビや映画の話題作に出演し始める。
「オーディションを勝ち抜いて起用された映画『小さいおうち』では、主役の松たか子を支える女中役。彼女にとって、松はもともと憧れの女優だったし、山田洋次監督は彼女の祖母が大ファンだった。それで銀熊賞も獲得。業界でも彼女は“持ってる女優”だと名前が一気に知れ渡った」(映画関係者)
一躍、人気女優となった彼女だが、学生時代の仲間たちとは今でも交流があるという。前出・寺脇教授は言う。
「黒木の大学の同級生で売れない役者が昨年末、小さな舞台に出た。彼女はちゃんと激励がてら観に来ていました。自分が売れてもともに学んだ仲間を大事にしている。その情愛が多くの方々に好かれる理由なのだと思います」
寺脇教授が黒木と再会したのは、再び山田洋次監督と組んだ映画『母と暮らせば』の公開直前。寺脇教授は「今度の山田組はどうだった?」と聞いた。
「『小さいおうち』のときは何もかも夢中だった。でも今回は山田監督とは2回目だったから、ちゃんといい仕事をしようと思って監督にぶつかっていけた。自分のこれまでにない新しい面が出せたと思います」と答えたという。
「日本には華やかな女優も演技力の高い女優もいっぱいいます。だが、あの若さで“七色の顔”を自在に演じられる女優は日本では黒木華しかいない」(寺脇教授)
(FLASH 2016年3月1日号)