「僕は、一匹狼のつもりでやってきてはいるんですけど、先輩に恵まれているんです。父がいなかった分、いろんな方に教えていただきました」
そう語るのは、隔週連載『中山秀征の語り合いたい人』第60回のゲスト・歌舞伎役者の中村獅童さん(43)。大のロック好きで知られ、近年は、テレビドラマ、映画と幅広く活躍してきた経験を生かし、新作歌舞伎にも挑戦。昨年公演された『あらしのよるに』は大盛況のうちに幕を閉じた。そんな彼の原動力は幼いころからの反骨精神だったようです。
中山「近年はとくに1年を通してずっと舞台に立たれていますが、歌舞伎役者になりたいと思ったのはいつごろなのでしょう」
獅童「祖母に連れられて、親戚やいとこが出ている歌舞伎の舞台を見ているうちに『あんなふうに舞台に出たい』と頼んだのが最初ですね。それで、6歳で日本舞踊のお稽古を始めて、7歳で初お目見えして、8歳のときに二代目中村獅童を襲名させていただいて。自分が入りたくて入った世界ですから楽しくてしょうがなかったですよ」
中山「そこからずっと続けられて?」
獅童「続けていましたが、父が歌舞伎を廃業していましたこともあり、複雑な時期に入ってきて。周りの子たちのほうがいい役がつくんですよ。子供心に『なんか扱いが違うな』って(笑)。だんだんそういうことを感じる年ごろになっていって、もともと人見知りだし、一人っ子でマイペースなので、なかなか歌舞伎界に溶け込めなくなっていったんですよね」
中山「そこでロックバンドを?」
獅童「高校でちょうどバンドブームがあって、びりびりに破けたジーンズにライダースジャケットを着て、スタジオで練習して時間がくると、『躍りのお稽古だから帰るわ』と」
中山「それで稽古に行くと、悶々とする?
獅童「子供のころは、まだチヤホヤしてくれたんですけど、思春期くらいになると誰だかわからなくなっちゃう。とくに僕はフリーのような状態で、かといってお弟子さんにはなれないし、非常に中途半端な位置だったと思いますね」
中山「一匹狼のようになっていたんですね」
獅童「ただ、『中村獅童は親が歌舞伎役者じゃないから主役は無理ですね』『はい、わかりました』という当たり前のレールを走っていくんじゃなくて、『親がいないのによく主役ができるようになった』と言われる役者になるにはどうしたらいいのか考えました」
中山「あきらめなかったんですね」
獅童「そうですね。独自路線というか、ほかの人と同じことをやっていてもダメだと思って。いまの中村獅童の持っているもの、普通の友達とつきあったり、ロックバンドをやって培ってきたもので、『歌舞伎役者=ロックを聴かない』と思っている人たちに、自分らしさをアピールしたいという思いが強くなりました。歌舞伎を見たことのない、ロックやファッションの好きな人たちを振り向かせるようなメッセージを発信できる役者になりたい、と」