「作中で松山さんが髪の毛を切るシーンを見たとき、『聖の生き写しだ』と思いましたね」
“伝説の棋士”村山聖さん(享年29)の母・トミコさん(83)は、現在公開中の映画『聖の青春』についてこう語った。腎臓の難病・ネフローゼを患いながらも将棋に人生を賭けた聖さんは“東の羽生・西の村山”と言われ、あの羽生善治(46)と並び称された天才棋士。作中では松山ケンイチ(31)が、その生きざまを熱演している。
実は昨年11月、彼は広島で暮らす聖さんの父・伸一さん(31)と母・トミコさんのもとを訪れていた。そのとき2人を驚かせたのは、松山の激変ぶり。トミコさんがこう振り返る。
「松山さんは役作りのため、26kgも体重を増やされていました。どうやったのかと聞いてみると『いやあ、食べて寝るんですよ』と笑っていました」
しかしその裏では、地獄のような努力を重ねていた。
「松山さんの肉体改造は過酷をきわめました。周囲に『美味しいものも美味しいと感じなくなってしまうんです』と弱音を漏らすほど、とにかく食べ続けて増量したそうです。そこまでしたのは、彼が聖さんの生き様に心を揺さぶられたから。『原作を読んで、この人のためなら全部捨てられる』と語るほど、この作品にかけていたんです」(映画関係者)
そんな“鬼気の食卓”を乗り越えてきた松山。夫妻と対面した際も、しっかりと読み込まれた原作本を手にしていたという。トミコさんはそのときの様子をこう続ける。
「持っていた文庫本には、付箋がたくさん貼られていました。『息子さんはどんな方でしたか?』などといろんなことを聞かれ、2時間ほどお話させていただきました。松山さんは、お墓参りもしてくださって、ずいぶんと長いことお墓の前で手も合わせてくださいました」
松山の作品への思いは、父・伸一さんにもしっかりと届いていた。
「私は心臓を患っていて2度の手術を経験していますが、このとき心臓につけていた人工弁が外れかかっていたんです。3回目の手術はもうしたくなかったけど『このままでは冬を越せないかもしれない。そうなれば映画も見られない』と思い昨年12月に手術を決断。9時間に及ぶ大手術でしたが、映画があったからここまで生きることができたと思います」
また2年前に脳梗塞を発症したというトミコさんも、映画に救われていた。
「映画は2回見たのですが、最初は涙が出てきて直視できませんでした。当時の悲しい出来事を思い出してしまったんです。でも皆さんが本当に一生懸命に作ってくれた映画。だから2度目は正面から向き合って見ようと思いました。作中の松山さんの所作や話し方なんて、聖にそっくりでね。棋譜まで覚えて演じて下さったそうで、本当に嬉しかった……」
松山は聖さんについて「命を燃やしている方。その激しさに見せられた」と語っていた。そんな聖さんの生きざまは今もなお、松山の熱演を通じて見る人を魅了し続けている――。