視聴率の明暗が分かれつつある春ドラマのなかで、今期の“勝ち組”は刑事もの。はたしてどこまでリアルなのか?そこで、元捜査一課の刑事で、現在は「総合探偵社MR」でカウンセラーとして依頼者の悩みと向き合う田中厚子さん、元千葉県警国際捜査課通訳センター勤務で、現在は民間の通訳として活躍する岡村恵子さん、機動捜査隊や捜査三課、国際捜査課などで任務にあたり、現在は犯罪ジャーナリストの小川泰平さんの“元刑事”が今期の刑事ドラマを徹底解剖してくれた。
「警察内部を細かく描いていて、リアルでおもしろい。長谷川(博巳)さんの目力、所作が素晴らしい」と小川さんが太鼓判を押すのが『小さな巨人』(TBS系・日曜21時〜)。
「刑事みんなの目指す頂点が、香川(照之)さん演じる“(捜査)一課長”です。そもそも刑事自体、すべての警察官がなれるわけではなく、私の時代も所轄の警察官500人のうち、試験を受けられたのは2人だけ。しかも合格は1人。『人事はひとごと(人事)』なんて言われるほど、異動も多い。そんな中から上りつめた、警察の顔でもある“一課長”は24時間有事即応態勢で、お酒もほとんど飲みません。ドラマで描かれているように、運転手もつきます」(小川さん)
また三笠(春風亭昇太)のように“一課長”を退任後、所轄の警察署の署長になるのもリアルだという。
「所轄の情報で本部が動くのも、渡部刑事(安田顕)のように被疑者と連絡を取り合うのが所轄刑事というのも、リアルで見応えがありますね」
岡村さんも『小さな巨人』で描かれる本庁と所轄のやり取りを「懐かしい」という。
「本庁とは協力し合っていましたが、地道な作業の成果を本庁に“持っていかれる”感じはわかります」(岡村さん)
そんな岡村さんが、「女性から見て憧れる。警察は男性社会でもありますから、元職員として、こういう女性刑事は頼もしい」というのが、『緊急取調室(第2シーズン)』(テレビ朝日系・木曜21時〜)の天海祐希。岡村さんは通訳として取調べに臨み、被疑者の信頼を得ることで、事件を解決に導いたことがある。
「言葉が通じなくて閉ざしてしまった心を、中国語で話しかけることでほぐし、『通訳さんになら話します』と、信頼されることもありました。『家族に危害が加わる』という理由で、話したがらない被疑者もいます。そうした心配事や言い分をくみ、不安を取り除いて供述しやすく導くのは、ドラマと通じるところがありますね」(岡村さん)
小川さんも『キントリ』の天海は好印象のようだ。
「地味な作業である取調べをメインにしたドラマは画期的です。あんな取調室はリアルにはないけれど、天海さんの捜査に臨む気概がいい。これからの時代、現実社会でも女性の感性が、もっと捜査に生かされるといいですね」(小川さん)
シリーズものへの元刑事たちの評価も高い。『警視庁・捜査一課長(シーズン2)』(テレビ朝日系・木曜20時〜)を見て、「ああいう“一課長”はリアルにいますよ」というのは田中さん。
「内藤(剛志)さん演じる大岩一課長のように、実際にも実直な人が多いんです。現場のことをよくわかったうえで、たたき上げで一課長になった人も多い。私にも内藤さんのような上司がいて、尊敬していました。よくおすし屋さんにも連れていってもらいましたね」(田中さん)
小川さんが評価するのは、渡瀬恒彦さんの遺志を継いで9係が奮闘する『警視庁捜査一課9係(シーズン12)』(テレビ朝日系・水曜21時〜)。
「所轄チームで連携して解決していく捜査の進め方が本当にリアル。渡瀬(恒彦)さんがいなくなったのは残念ですが、チームプレーで捜査を頑張っていておもしろい」(小川さん)
そんな3人が西島秀俊&小栗旬のカッコよさを、一視聴者として堪能しているというのが、今期ドラマの中でも満足度ランキング1位(5月19日現在)の『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系・火曜21時〜)だ。
「西島さんのような刑事さんは現実にはいなかった(笑)。だからこそ“こんな人がいたらいいな”とファンタジーとして楽しんでいます」と、田中さんがいえば、機動隊の経験がある小川さんも、「西島さんの“蹴り”が見どころ。アクションドラマとして見応えがあります」と語る。
深夜枠の『犯罪症候群』(フジテレビ系・土曜23時40分〜)が気になるというのは岡村さん。
「谷原章介さん&渡部篤郎さんのキャストも魅力的。実際、取調べをしていると、人の弱さや育ってきた環境、社会背景も大きく関わっていることに気づかされます。事件に巻き込まれるかどうかは、まさに紙一重なんですね」(岡村さん)
元刑事もその“迫真性”にハマる今期の刑事ドラマ。とことんリアルに描いた世界に“突入”するのは、今からでも決して遅くない。