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映画の年間興行収入が、過去最高を達成したと発表された2019年。年間興行ランキングには、2位に『アラジン(実写版)』、5位に公開4週目の『アナと雪の女王2』が入っている。ディズニーアニメは子供向けと思われるかもしれないが、これらの作品は大人が見ても楽しめる作品。特に『アナ雪2』は、”女性の活躍”と”民族の分断”がテーマの社会派アニメなのだ。ファンタジーという枠組みを超えて、大人をものめりこませる、3つの理由を解説する。

 

【1】ジェンダー観に縛られないリアルなキャラクターたち

 

ディズニーは過去の作品において、”プリンセスが強い王子に恋をしてハッピーエンド”という物語を多く提供してきた。

 

しかし、2019年に公開されたディズニー映画では、今の時代を反映した女性像が描かれている。実写リメイク版『アラジン』のヒロインであるジャスミンは、男性社会を強く生き抜く姿を、アニメ版よりも印象的に見せていた。また、『アナ雪2』では、エルサもアナも国を治める立場についていて、ディズニーの描く女性像の変化を色濃く表現していた。

 

アナとエルサについて、

 

(1)女性は強い男性に助けてもらうのではなく、自分で未来を切り開く必要があること。
(2)それは一人で生きていくことではなく、(姉妹や恋人のように)そばで見守ってくれるパートナーがいること。

 

これらをみせることで、だた強く、孤高の存在でいるのではなく、周囲との繋がりを大切にする、等身大の女性像を表現していたと感じる。時に弱さをみせて妹に頼るエルサ、優柔不断だけどやさしいクリストフにも支えてもらうアナ。彼女らの姿は多くの人に共感されるだろう。

 

また、クリストフとオラフのような男性像も好感度が高かった。彼らは、従来のディズニーが描くヒーロー的な王子さまではなく、パートナーとして女性に寄り添いサポートしている。一見ダメ男に見えがちだが、敬意をもった接し方がとても魅力的だった。

 

【2】実在する少数民族の歴史に見るアレンデール王国とノーサルドラの関係

 

日々流れるニュースでは、国家や民族に対する分断と迫害が問題になっている。香港の情勢は刻々と変わっており、アメリカでは来年の選挙に向けて人種間の摩擦が強まっている。『アナ雪2』では、北欧に実在するサーミ人らしき民族が物語の鍵を担う。以前から、『アナ雪』でエルサの妹アナを助けるトナカイ飼いのクリストフは、服装からもサーミ人がモデルと言われていた。

 

ディズニーは今回の作品を撮るにあたって、サーミ人の代表と文化の尊重に関する契約を締結。北サーミ語で吹き替え版を作り、ノルウェー語版と同時に公開などして、良好な関係を築いている。

 

サーミ人はトナカイと共に遊牧して生活する民族で、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの4カ国にまたがる形で生活している。サーミ人は先住民とされていて、スウェーデン、ノルウェー両国から迫害を受けていた過去も。そして1970年代後半から1980年代にかけて、アルタ・ダムの建設に関してノルウェー政府との間で闘争があった。

 

『アナ雪2』では、この闘争と同じように、ダムをモチーフにした対立が描かれている。エルサとアナが住むアレンデール王国と、森に住むノーサルドラの闘争だ。民族の差別や迫害については、日本ではどこか対岸の火事的な捉え方をされがちだが、ダムが起点になっていた事で、身近な対立構造として理解しやすかったと思う。

 

歴史的に、先住民はしばしば国家から言語、文化の放棄を強いられてきた。残念ながら、人類は異質なものを排斥するという思考が根底にあるらしい。ディズニーは、『アナ雪2』で民族間の対立と迫害を描くことで、劇中にアナが歌う「The Next Right Thing(今できる正しいこと)」を社会に訴えかけていた。

 

【3】あの名作のような視聴後の感覚

 

”運命を切り開いていく女性”と”民族の分断”をテーマとした作品構造に近い作品をみなさんはご存知ではないだろうか? 多くの人が一度は見たことがあるであろう『風の谷のナウシカ』(1984年)がそれである。

 

文明を持つ大国と自然を愛する小国の分断、そしてその状況に向き合う女性。「ダム」という象徴的な人工物により、精霊の怒りを買うというテーマも通ずる部分がある。さらに、エルサがアレンデール王国の前で氾濫する水と対峙するラストシーンは、まるで王蟲(オウム)の群れに対峙するナウシカそのものに見えた。

 

宮崎アニメが海外でも評価されてきたのは、「文明と自然との対立、和解」という普遍的な問題を描いてきたからである。そして、この『アナ雪2』も国家や民族の問題と自然(精霊)の怒りを描くことで、人類が向き合い続けてきた普遍的なテーマを題材とした名作だと感じる。

 

『アナ雪2』はアニメ映画の世界で40年前からメッセージを送っていた宮崎駿監督の素晴らしさに改めて気づくとともに、『アナ雪』という最高の舞台を用いて、今の時代性に合う“女性の活躍”と“民族の分断”をテーマとした社会派のメッセージが描かれた意欲作だった。

 

ディズニーには、映画を通じて「The Next Right Thing(今できる正しいこと)」により一層チャレンジして欲しい。

 

【PROFILE】

みる兄さん(ライター)

本業はビューティ系SNSの中の人とオウンドメディアの責任者。マーケティングや映画についての熱量を淡々と文字に込める人。主にツイッター(@milnii_san)に生息してます。

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