■同じBLでも、日本とタイとではカメラワークに違いが
「日本ではもともと00年代の後半から10年代の前半にかけて、BL映画を盛んに製作する時期があったんです。とはいえミニシアターでの上映とDVD化がメイン。今のように人気俳優が出演することは、まずありませんでした。
ところが、近年は著名な俳優がBL映画で主演を務めています。またBL映画だけでなく、同性愛者を主人公にした映画も多数公開されるようになりました。昨年の『his』では宮沢氷魚さん(26)と藤原季節さん(28)が、そして『影裏』では綾野剛さん(39)がメインキャストに。男性同士の物語に人気のある俳優が出演するようになったのは、時代の変化を感じます」
こう語るのは、映画学を専門としている金沢大学の久保豊氏だ。久保氏は先月まで、早稲田大学演劇博物館で企画展「Inside/Out─映像文化とLGBTQ+」を開催。日本の映画やドラマでLGBTQ+の人々や同性間の親密さが、どのように描かれてきたのかを紹介した。同展は多くのメディアで取り上げられるなど大きな反響を呼んだ。
タイBLについて「話の質がすごく高い。男性同士の物語をメインストリームに向けて多数提示しているのもいいこと」という久保氏。続けて、タイBLの“時代性”についてこう話す。
「タイBLはYouTubeやLINE TVなど、若い人たちがアクセスしやすいものにプラットフォームを置いて、多言語字幕付きで発信されています。“どうすれば見てもらえるのか”を戦略的かつ丁寧に考えているのでしょう。ですから、視聴者の幅がグローバルになっているんだと思います」
そんな日本のBLとタイBLを作品で見比べたとき、どんな違いがあるのだろうか?久保氏は「カメラワークにそれぞれ特徴があります」と語る。
「日本のものは主人公の顔をメインで見せるようになっているので、“見つめ合う”という行為が一つの大きなスペクタクルになっています。『チェリまほ』も結ばれた後のベッドシーンは、バストショットを軸に表情を強調していましたね。
対するタイBLは身体全体を使い、惹かれ合う2人が“どのように互いの距離を詰めていくか”を演出する傾向があります。カメラワークが違うということは、感情移入のさせ方が違うということ。そういう観点で見比べるのも面白いですよ」