’80年4月1日、『裸足の季節』でデビューした松田聖子(60)。8月14日には、2枚目の『青い珊瑚礁』で音楽番組『ザ・ベストテン』(TBS系)に初ランクイン。札幌でのキャンペーンを終えた聖子は羽田空港で飛行機のタラップを降りて歌唱。そんな衝撃的な生中継も相まって人気が上昇し、9月18日には初の1位に。
その2カ月後、日本歌謡大賞で放送音楽新人賞を受賞。『青い珊瑚礁』を歌う途中におえつし、母親がハンカチで聖子の目を拭った。カメラはその顔をアップで捉えたが、涙は流れていないように見え、『ウソ泣き』とたたかれた。
聖子はそれさえもプラスに変えた。『ヤンヤン歌うスタジオ』(テレビ東京系)で121回も共演した、あのねのねの清水国明(71)は、コントでの勘所のよさに感心した。
「『ぶりっ子』とか『ウソ泣き』と突っ込んでも、『イヤだ~』とか『涙出てますよ~』といいリアクションをしてくれました。魚の“ぶり”の被り物もしてくれたし、すでに、求められる自分の役回りをわかっていたんですね。なんでもやってくれるので助かりました。
コントでは思いっきり緩い部分を見せてくれるけど、歌ではきちんとカメラ目線で決める。そのギャップがすばらしかった」
天性のアイドルである聖子は、研究熱心な一面も。当時、頻繁に撮影していたカメラマン・YAHIMONときはる氏が回顧する。
「どんな写真が撮れたか確認してもらうため、アイドルにはポラロイドを見せていました。ほかの人はその場でチラッと目にするだけですが、聖子さんは『いただけますか?』と欲しがるんです。今考えると、家で自分の表情を研究していたのかもしれません。努力を惜しまない天性のアイドルですね」
歌唱力も兼ね備えていた。編曲家の船山基紀氏はこう評する。
「アイドルという立ち位置だと、速いテンポで曲を押していって、聴き手に『歌っている』と感じさせる必要があります。でも聖子さんは伸びのある声でじっくり歌を聴かせられるので、ミディアムテンポでも曲を作れる。幅広くいい歌を引き寄せる実力がありました」