■取材で感じたアナウンサーの限界
元NHKアナウンサーの内多勝康さん(58)は現在、国立成育医療研究センターの医療型短期入所施設・もみじの家でハウスマネージャーとして働いている。内多さんは仕事内容をこう説明する。
「もみじの家は医療的なケアが必要な子供と家族を支えるための施設です。ハウスマネージャーというのは、職場長のような立ち位置。主に広報活動や事務作業に取り組んでいます」
転職したのは’16年。NHK勤続30年という節目の年だった。
「’13年に『クローズアップ現代』(NHK総合)で、医療的ケアをテーマにした企画に携わりました」
この取材のなかで内多さんは、退院後も日常的に医療を必要とする子どもとその家族を取り巻く厳しい現状を目の当たりにする。
「番組では、『子どもから目を離せず外出もままならない』『夜も眠れない』といったご家族の言葉をお伝えすることができました。ですが、この番組は扱うテーマが毎回変わるため、私がこれ以上、医療的ケアを巡る課題を深掘りすることはできなかったのです」
それでも、内多さんの心からは「この問題にもっと深く携わりたい」という思いが消えなかった。
「1年ほどたったとき、福祉業界の方からもみじの家ができるというお話を聞きました。病院関係者以外も招き入れたいとの方針も知り、『関心があるならどうですか』と背中を押してもらったのです。『NHKではそろそろ先が見えてきた』という心境だったこともあって、新たな可能性に懸けてみようと思いました。
最近は、医療的ケアを必要とする当事者家族の要望が行政に適切に届く流れを作るため、各都道府県に医療的ケア家族会を立ち上げてもらうよう働きかけています」