■メディアの多様化でアナウンサーの注目度も低下
伊東楓さん(28)も、新たな挑戦をしている元アナウンサーの1人だ。’21年2月にTBSを退社すると、3月には初の絵詩集『唯一の月』を出版。その後も“外でも着たいパジャマ”をファッションブランドとコラボして制作するなど、アーティストとして精力的に活動している。’21年10月には自分の仕事のフィールドを広げつつ、クリエーティブな仕事をするうえで刺激を受けるためドイツへと渡った。
アーティストに転身した理由を伊東さんはこう明かす。
「情報番組を担当していたときは、誰かの代弁者として原稿を読んだり、司会をするといったことが多かったんです。我を出さずタレントたちを受け止める存在がアナウンサーなのだと、私は感じていました」
目の前の仕事にまい進していくなかで、あることに気がついたと伊東さんは続ける。
「バラエティ番組やラジオを担当し、自分の意見を言う経験を通して自分の言葉で話すことが好きだとわかったんです。万人に愛されることを目指すアナウンサーではなく自分の思いを正直に表現していく発信者でありたいと。幼いころから続けていて、夢中になれる“絵を描くこと”が私にとって表現の手段でした。
たとえリスクがあったとしてもやりたいと思えたので、迷いなく退社という決断をしました」
前出の鎮目さんは近年のアナウンサーの他業界への転身の背景をこう見る。
「そもそもアナウンサーは、頭がよくてコミュニケーション能力も高い人が多い職業。アナウンサー以外の仕事でも活躍できる能力を持っている人ばかりだと思います。
ですが、テレビ局のアナウンサーに求められるのは、番組のプロデューサーやディレクターの指示に従って振る舞うこと。自分を殺してタレントを引き立てたり、番組を盛り上げたりといったことに徹するうちに、むなしさを感じるようになってしまうことがあります。またメディアが多様化しているなかで、以前と比べて活躍の場は減っており注目度も下がっています」
そんなアナウンサーたちは別の世界を意識するようになるという。
「昔持っていた夢にもう一度チャレンジしたり、自分が本当にやりたいことに挑戦したりと、より評価される仕事をしたいと考えるようになるのです。そのため、“安定した仕事”を続けるより、放送業界ではないところをセカンドキャリアとして選ぶ人が増えているのだと思います」
勇断を下した元アナウンサーたち。新天地での活躍に期待がかかるーー。