■山田先生は「もっとあってもよかったかも……」と
頭木さんが解説してくれた。
「良雄はIVで結婚しますが、1年7カ月で離婚して、さらにそれから5年たっています。 電車の中、自分が見られたくないことをするときに、幽霊となった良雄の母が現れるんです。《人は死んでも影響を与え続ける》という先生の考えがあるんです。《亡くなった人の言葉で思い出すこともある》と。後編の頭にもナレーションがあります」
《「このあたりで何かしないと、人生ここ止まりじゃないのか。このままでいいのか」「あぶなくても、もう少し別の人生を求めなくてもいいのか」》(同書より)
40代の林檎たちが葛藤を抱えながら生きる姿が描かれている。
「僕が先生に取材したときは、シリーズVの執筆から随分時がたっていたようです。TBSから制作発表もされましたが、制作されず結果的にIVで最後になりました」
’19年、『ふぞろいV』脚本の現物が発見されたときの山田さんの様子を頭木さんは振り返る。
「先生はシナリオを読み返されて、『これで最後かなと思っていたけれど、もっとあってもよかったかもしれませんね』とおっしゃっていました。
先生ご自身も、Vを描かれた当時は『40歳は節目で、人生に大きな区切りはない』と思っていたそうですが、80代になられて『その後も人生はいろいろある』と思い直されたようなのです。先生は登場人物が高齢になっていくことをよくテーマにされていました。『ふぞろいの林檎たち』が60代、70代になっていたら……。もし、シリーズVが制作されていたら、“還暦のふぞろい”もあったかもしれないと思います」
12月1日、『ふぞろいの林檎たち』に出演した柳沢慎吾(61)も山田さんの訃報に、《もう一度、山田先生とご一緒したいと、今でもキャストとスタッフで願っておりました》とコメント。山田さんが思い描いた“老いらくの林檎たち”を長年のファンも見たかったはずだ。