女優活動はしていたものの、ほぼ無名だった2人が、主演映画『汚れなき祈り』で12年のカンヌ国際映画祭・女優賞を受賞し、話題をさらった。本作は、05年にルーマニアの修道院で起きた悪魔祓いの事件をもとに、2人の女性の孤独と悲劇が描かれている。
(左)こすみな・すとらたん☆84年10月20日生まれ、ルーマニア・ヤシ出身。学生時代にいくつかの短編映画に出演。長編映画は、本作がデビューとな
る。(右)くりすてぃな・ふるとぅる☆78年1月20日生まれ、ルーマニア・ヤシ出身。ルーマニアのナショナル・シアター「Radu
Stanca」で女優として舞台に立つ。映画は本作がデビュー。
映画『汚れなき祈り』
製作・監督・脚本/クリスティアン・ムンジウ 3月16日(土)~、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
(c)2012 Mobra Films – Why Not Productions – Les Films du Fleuve – France 3 Cinema – Mandragora Movies
(オフィシャルサイト)http://www.kegarenaki.com/
――実話をもとに作られた映画だそうですが、05年当時、ルーマニアで、このニュースはどのように扱われていたのでしょうか。
コスミナ「ホットなトピックで、みんながこのニュースについて話していました。報道も過熱して、テレビで特番が組まれたり。ある種のブームみたいでしたね」
――役についてなんですが、クリスティナさんは、ムンジウ監督からオファーがあったんですよね?
クリスティナ「私の写真を見て、役に合うのではないかと、監督が声をかけてくれました。1回目のオーディションに行ったときは、(自身が演じる)アリーナと(コスミナが演じる)ヴォイキツァの、両方のセリフを読みました。どちらの役がよいのか、たぶん、監督はまだ決めていなかったのではないでしょうか」
――コスミナさんもオーディションを受けたそうですが、役が決定したときのお気持ちはいかがでしたか?
コスミナ「本当に驚いて『夢かも……』と思いました。ムンジウ監督は、映画界で最高の監督のひとりで、いろいろと期待を背負った方ですから」
クリスティナ「私は、舞台のリハーサル中に監督から電話がかかってきて『出てほしい』って言われて。『どの役ですか?』って聞いたら、『アリーナの役だよ』と。同時に『この役は、本当にタフな役だからね』と釘を刺されました。それでも『わぁーっ!』って、喜びの声を上げました」
――クリスティナさんは、もともと女優のお仕事をされていたそうですが、コスミナさんは、本作が映画デビューだとか?
コスミナ「じつは私は、まだ大学生で。大学では演劇を専攻していますけれど、そこ以外で演技の経験はなかったんです。この映画出演が、初めての本格的な演技でした」
――それで、いきなり大きな役は、大変ではなかったですか?
コスミナ「たしかに挑戦ではありました。でも、あるアメリカの有名な映画監督――たしかクエンティン・タランティーノだったと思うんですが――が『経験は、積めば積むほどよくなっていくとは限らない。悪くなっていくこともある』と語っていました。私の場合も、初の映画でしたが、経験がないこと、つまり自信がないことが、逆に功を奏した部分があると思います。というのも、この役は、自分にすごく自信がある役者の演技だと、役が醸し出す雰囲気が違っていたと思うんです。その意味では、1本目の映画でいい演技をするのは、あまり難しくないかもしれません。2本目以降でいい演技をすることのほうが大変ですよね。それが本当のチャレンジです」
――クリスティナさんはアリーナを演じていて、彼女の孤独が理解できる瞬間があったかと思うんですが、彼女はどのような人物だと思いますか?
クリスティナ「そもそもアリーナは、育ちがよくて、まわりに気配りができて……という人ではなく、能動的な、自分が感じたままに行動する人。もちろんヴォイキツァのために感情を抑制することはあって、目的のために感情をコントロールできなくなることがあります。彼女には、ヴォイキツァしか目にないんですよ」
――実際、裁判では神父さんが罪に問われたそうですが、家族の問題という点でこの悪魔祓いの事件は扱われなかったのでしょうか?
クリスティナ「たしかに、そういうことも取り沙汰されました。アリーナとヴォイキツァが親に見捨てられてなかったら、この事件自体、起きなかったわけですよね。彼女たちは愛情が欠如した中で育ったからこうなったわけで。とくにアリーナは、父親の自殺現場を見たことがトラウマになり、母親はネグレクト。孤児院に会いに来ることもなかった。本当の親が存在するのに、それに拒絶されたのが、いちばんの苦しみではないかと。今、自分で話していても、その恐怖感から鳥肌が立ってきます。人に必要とされない、拒絶される、それってどういう気持ちでしょうか」
――カンヌ国際映画祭で、映画は女優賞・脚本賞とダブル受賞しました。どういう点が評価されたと思いますか?
コスミナ「完全なドキュメンタリーではなく、真実をある程度、再現して伝えることってすごく難しいことなんです。それができたのは、監督、俳優、クルー、みんながすばらしい人選だったんだと思います」
クリスティナ「この評価にいたったのは、正しい人選、正しいストーリーが正しいときに行われたからでしょう。それに、特定の意図を含めない中立的な内容だったこともあると思います。セット、音響に関しても、かなり時間を費やして、細部まで手が込んでいます。本当に、宝石みたいな映画に仕上がりました」
――女優賞を受賞して仕事が増えるなど、カンヌの効果は出ていますか?
コスミナ「舞台の仕事が決まりました。あと、映画のオーディションにも来てほしいと言われました」
クリスティナ「たしかに、扉は開かれましたね。それに足元をすくわれないように、と言われました」
――では最後に、作品のPRをお願いします。
コスミナ「もしこの映画を見たら、愛というものがどういう意味を持つのか、それを見つめる機会になると思います」
クリスティナ「自分を、ほかの人の立場に置いてみるということだとも思うんですが、人が何らかの決断を下すときの“基準”は何なんだろう、と。それが語られている映画です」