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日本を代表するミュージカル俳優といえば、この人。圧倒的な存在感と演技力で、観客を魅了する市村正親だ。
彼の俳優生活40周年記念公演のひとつである、井上ひさし作の音楽劇『それからのブンとフン』は、奇想天外なファンタジー。万年貧乏の売れない小説家・大友憤(フン)を演じる。
「彼は、読者に迎合してまで小説を書きたくないんです。『わしの小説は難解である! 言いたいことだけ書くんだ』とか、言い訳して。でも『憤』なんていうペンネームをつけるくらいだから、かわいいヤツだと思いますよ。憤ってい
る自分をわかっているということですよね。売れなくてもがんばるんだ!と、自分にハッパをかけてるんです」
あるとき、シマウマのしま模様や奈良の大仏など、想像を絶するようなものが盗まれる事件が起き始める。犯人は、なんとフンの小説の主人公、大泥棒のブン(小池栄子)。主人公が作品の中から抜け出したことで、彼の小説は世界中
でベストセラーに。
「フンに、それまでにはなかった『売れたい』という欲が出てきたからこそ、ブンは飛び出してきたのでは。『あんた、それでいいの!?』と」
形あるものに飽きたブンは、見えや記憶、歴史までも盗もうとする。四次元の世界に住み、変幻自在のブンを、警察は捕まえられない。
「井上先生の作品は、何でもありで面白いんです。でも単なる遊び心だけでなく、登場人物の必死ぶりには、人間臭さを感じさせます。ハチャメチャながらも、ちゃんと筋は通っていて、最後には人生を考えさせてくれる。参りました!!という感じです」
『それからのブンとフン』は小説『ブンとフン』の後日談として、38年前に書かれた戯曲。当時、世の中は学生運動やベトナム戦争への反戦運動一色だった。演劇学校に通っていた市村自身は、どんな学生だった?
「アルバイトが忙しくて、余裕はなかったですね。先輩と銀座で屋台を引いて、きつねうどんを販売したり。将来の自分を思い描く余裕がないくらい、今をガムシャラに生きていましたよ」
それから約40年。今の彼に、大泥棒ブンに盗んでほしい、邪魔なものを聞いてみた。
「仕事も人生も幸せで思いつかないですが、あえていうなら膝や腰の痛みを〝盗と って〟ほしい。子供を抱っこするのに必要なのは、強い足腰ですから。非常に現実的ですね(笑)」
いちむら・まさちか

’49年1月28日生まれ、埼玉県出身。舞台芸術学院卒業後、俳優・西村晃の付き人を経て劇団四季に。’73年『イエス・キリスト=スーパースター』で舞台デビュー。’90年に退団するまで多くの舞台に出演。退団後は舞台のほか、ドラマや映画などでも活躍している。12月にはミュージカル『スクルージ』、’14年3月〜4月には同じく『ラブ・ネバー・ダイ』の公演が控えている。

舞台『それからのブンとフン』

9月28日(土)〜29日(日)、KAAT神奈川芸術劇場にて。10月3日(木)〜15日(火)、東京・天王洲銀河劇場にて。詳細はこまつ座(03-3862-5941)まで

 

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