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楽しく、わかりやすい軽演劇を追求する、劇団東京ヴォードヴィルショー。入団30年目になる、あめくみちこが20代のころに起こした「網タイツ事件」は、文字どおり喜劇のような話だった。
「長い耳に丸いしっぽをつけた、バニーガールの衣装を着ていたときのことでした。開演直前に網タイツが破けてしまい『うわっ、どうしよう⁉』って。共演していた女優さんが機転を利かせて、破けた部分の太ももに、フェルトペンでじかに網目模様を描いてくれて、事なきを得ました。今より10㌔くらい、ふくよかだったころかな(笑)」
無事に舞台が終了し、胸をなで下ろしながら裏に下がったのだが……。
「動き回ったからか、タイツの裂け目とペンの模様がみごとにズレていたんです。それこそ、〝その場しのぎ〞にもならない大失敗でした(笑)」
このたび、結成40周年を迎える同劇団の記念公演『その場しのぎの男たち』が開幕する。1891(明治24)年に起きた大津事件をもとに、’92年に三谷幸喜が劇団のために書き下ろした戯曲だ。
訪日していたロシアの皇太子が、警備を担当する巡査・津田三蔵(京極圭)に襲われたことが、物語の発端となる。組閣まもない松方正義(佐渡稔)内閣にとって事件は、日本の命運にかかわる大ピンチであると同時に、「伊藤博文(伊東四朗)の傀儡(かいらい)政権」という汚名を返上するチャンスでもあった。
陸奥宗光(佐藤B作)をはじめ、松方総理を取り巻くほかの大臣たちは、ない知恵を絞って対策を練るが、どれもこれもその場しのぎの、ちゃちな思いつき。さらには、元老となった伊藤博文も閣議に乗り込み、さらなる混乱を招くのだった。
「セリフも物語もよくわかっているのに、台本を開くといつも新鮮で。改めて声を出して笑ってしまうんですよね」
4回目となる今回の公演。登場人物の思惑が、涙が出るほど人間くさく、リアルだからこそ、爆笑につながる。三谷マジック炸さく裂れつの喜劇だ。あめくは初演以来、一貫して三蔵の妻を演じる。
「夫の役は毎回、若手の役者に替わるんです。おかげで、女房のほうだけが年を重ねて(笑)。さすがに今回は『私でいいの?』と座長に相談したら、『顔がアップで映るテレビや映画と違うから、大丈夫だよ』って」
そんなエピソードが次々に飛び出すのは、彼女と劇団の付き合いの長さゆえ。実生活では夫である、佐藤B作座長との間にも、今だから笑える事件が枚挙にいとまがない。
地方公演の開演前、夫が楽屋で洗顔中に、突然のぎっくり腰を発症したことも。その後の旅公演では、行く先々で整体師を探し、ホテルで治療やマッサージを受けて、ハードなスケジュールを切り抜けたそうだ。
「たいへんでしたよ、動けないんですから。偶然、舞台でつえをつく役だったのでなんとかなりましたけど。そういえば、リンゴをかじったお芝居の直後に、差し歯が取れたこともありました。素早く拾い上げたんですが、それから先は終始、おちょぼ口でセリフを言う羽目になって。耐えきれずに本人が笑いだし、ほの役者や、最後にはお客さんまでみんな笑って、その場
面は全滅でした(笑)」
考えるだけで楽しい顔ぶれが、大いに笑わせてくれる舞台。政治家も必見の(?)作品だ。
あめく・みちこ

’63年11月14日生まれ、沖縄県出身。’83年「劇団東京ヴォードヴィルショー」入団。おもな出演作にドラマ『弁護士高見沢響子』シリーズ、『なるようになるさ。』(ともにTBS系)、『カーネーション』(NHK連続テレビ小説)、舞台『負傷者16人』、『竜馬の妻とその夫と愛人』(ともに’12年/両作品で読売演劇大賞優秀女優賞を受賞)などがある。

舞台劇団東京ヴォードヴィルショー第69回公演『その場しのぎの男たち』
東京公演/ 10月18日(金)~31日(木)、下
北沢・本多劇場にて。ほか、各地にて公
演。詳細は劇団ウェブサイト(http://www.vaudeville-show.com/)まで

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