「『暮らしの手帳』を創刊した大橋鎭子さんの自伝『「暮らしの手帳」とわたし』(暮らしの手帳社)を読んで、大橋さんの人生に触れて、僕がいちばん引っかかったのは、彼女が10歳のときに父を亡くして、しかも喪主をつとめたエピソード。これに着想を得て、幼くして父と死別して、父親の役割を担っていくヒロインはどうだろうか。これは現代のシングルマザーやシングルファザーに通じるものがあるんじゃないか、と思ったんです」
こう語るのは、放映開始から毎回20%超の高視聴率を続けている『とと姉ちゃん』の脚本を担当する西田征史(まさふみ)さん(41)だ。
西田さんに“本作を通じて伝えたいこと”を聞いたところ、「あえて言うとしたら『何気ない日常がいかに大切で、いとおしいか』ということ、でしょうか」という答えが返ってきた。実は、西田さんもまた幼くして家族を亡くした過去を持っている。
「うちは両親と、2歳年上の兄と僕の4人家族でしたが、僕が8歳のときに、兄が交通事故で亡くなりました。兄の死後、家族で兄のことを語ることはあまりありませんでしたが、僕は高校3年のとき、芸人になりたいと思って、その夢を父親(71)に伝えました。うちはわりと堅い家でしたので当然反対されるだろうと思っていたら、親父は『やりたいならやりなさい』と」
二十歳を過ぎたころ、父に「あのときなぜ『やりなさい』と言ってくれたの?』と聞いたことがあったという。
「親父はやはり兄のことがあって『人間、いつ人生が終わってしまうかわからない。だから、息子であっても、自分の型にはめるのではなく、自由に生きさせようと思った』と。このときの父の言葉が、わが子といえども一人の人間と認め、丁寧な言葉で娘たちに接する『小橋家の両親』や、毎日を一生懸命生きている登場人物に反映されているような気がします」
最後に『とと姉ちゃん』のこれからの見どころについて聞いてみた。
「脚本を書きながら広がっていったことの一つがお母さん=『小橋君子』の存在です。先ほども言いましたように大橋鎭子さん=常子は10歳で喪主を務めますが、普通なら喪主は妻の君子です。にもかかわらず彼女が、まだ10歳の娘を喪主にしたことは、そこに母親としての“覚悟”があったと思うんです。そういう意味では、『とと姉ちゃん』は、父との約束の物語ですけど、時間的には母と娘の“親子物語”ですので。これからも、母親目線も意識して書いていきたいですし、この点にも注目してご覧いただけたらと思っています」