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「『篤姫』(’08年)と『江』(’11年)、2つの大河ドラマの脚本を書かせていただきましたが、大変なのは、資料がなかったことです。ずっと男社会だった日本では、女性の歴史的記録がほぼ残っていないんです。幕末から明治を生きた篤姫ですら、ほとんどない。ましてや戦国時代の江なんて(笑)」

 

こう話すのは脚本家の田渕久美子。今年スタートした『おんな城主 直虎』で56作目となる国民的番組・NHK大河ドラマは、つねに時代を映しつづけてきた。55年という長い大河ドラマの歴史の中で、篤姫と江という2人のヒロインに、現代の視点から新たな生命を吹き込んだ脚本家が田渕だ。そんな彼女が語る大河ドラマの重圧とは。

 

「私は、この世は女性が元気であることがとても重要だと思っているんです。ですから、資料が少ない分、イマジネーションで補いつつ、しなやかに困難を打破していくヒロインたちの人間性に光を当てるつもりで描きました。不思議なことに、大河ドラマを書いていると、『声なき声』が、本当に聞こえるような気がしてくるんです。『歴史書は違う、事実はこうだったんだ……』と、歴史に埋もれた人たちにも伝えたかったことがあるはずなんですね」

 

歴史に埋もれた人たちが伝えたかったことを現代になって代弁していくのも、大河ドラマを書く者の務めだと彼女は言う。

 

「たとえ後世で悪評ばかりの人物であっても、その人なりの正義がきっとあったはず。そうやって、登場人物全員を徹底的に愛して書いていく。すると、ヒロインたちの意志や心の機微が、より鮮やかになっていくんですね。たしかに大河ドラマを書くのは重圧があります。まず長いですし、歴史を再構築する責任の重さから、本気で逃げ出したいときもありました(笑)。それでも、魅力的な2人のヒロインに出会い、視聴者のみなさんに、私なりの2人の人物像をお伝えできたことは、とても幸運でしたね」

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