「わっ、バケモノ!」と毒づいた、女優で一般社団法人「Get in touch!」の理事長・東ちづるさん(57)に、「あ~ら、あ・り・が・と」と野太い声ですかさず切り返したのは、髭面にド派手なメークとウイッグ姿の女装詩人「ベアリーヌ・ド・ピンク」こと、長谷川博史さん(65)。電動車いすの上で情感たっぷりにしなをつくる。そんな2人のやりとりに周囲の人たちはどっと笑う。
12月10日に東京・品川プリンスホテルの「クラブeX」で開催される一夜限りのショー『平成まぜこぜ一座・月夜のからくりハウス』の全体ミーティングである。“悪徳座長”役の東さんをはじめ、演者たちの大半が集合。進行の打ち合わせが行われ、終盤には、本番さながらのメークと衣装のフィッティングが行われた。
演者の1人、長谷川さんは長年日本のゲイカルチャーを牽引してきたドラァグクイーンだ。25年前にHIV感染がわかったのち、「恥ずかしい病気だと思われたくない」と実名を公表したうえで講演活動を開始。この病気に対する偏見を打ち壊してきた。一昨年、糖尿病の合併症で右足を切断し、義足になる。
「長谷川さんの義足、マシンみたいでカッコいいよねえ」と、骨格むき出しの義足に東さんが見惚れると、長谷川さんは「足だけじゃなく、ほかも見せたほうがいいかしら~」と、ニヤリと笑う。
苦笑しながら東さんの視線は、髪をセット中の佐藤ひらりさん(16)へ。東さんに「あ、ひらりちゃーん! そのウイッグ、かわいいねえ」と呼ばれた佐藤さんは、声の出どころを探して首を伸ばし、よくとおる声で「ありがとうございます!」と答えた。彼女に東さんの姿は見えない。
佐藤さんは、生まれつき全盲のシンガー・ソングライターである。5歳からピアノを始め、12歳でニューヨーク・ハーレムの音楽の殿堂・アポロシアターに挑戦。見事、アマチュアナイトのウイークリーチャンピオンに輝いた。
この日の彼女のウイッグは、とぐろを巻いた明るい茶髪。東さんの「ひらりちゃんの頭、うんこみたいで、ホントかわいい!」というぶっ飛んだ発言に、皆またも爆笑。佐藤さん自身も、付き添いの母親まで屈託なく大笑いだ。
『月夜のからくりハウス』の出演者のほとんどは“障害者”である。脊髄性筋萎縮症のため顔と左手親指以外は動かない「寝たきり芸人」、骨形成不全症の「身長100cmのコラムニスト」、先天性脊椎側彎症・二分脊椎症の「義足の女優・ダンサー」、ろう者でLGBTの「手話漫才師」、小人症の「日本で一番小さい手品師」……。
長年、ボランティア活動を続けている東さんだが、今回、「Get in touch!」でつくり上げる舞台は、障害という個性のある表現者たちのエンタテインメントだ。
《障害者を見せ物にするのか》
そんな批判も聞こえてくるが、東さんは意に介さない。
「そういう人には『はい、そうですよ』と答えます。『もう、最高に上等な、クオリティの高い見せ物にします』って」(東さん)
ほがらかな笑顔に力みはない。長谷川さんが言う。
「障害者をこれだけ集めて見せ物にするってこと自体、僕たちからしたらすごくカッコいいですよ。ドラァグクイーンには、『男でも女でもない、特別な存在になってあげるわよ!』という開き直りがあって、わざと蓮っ葉な女のふりをするんですけど、たぶん東さんはね、同じようなメンタリティを持っているんです」(長谷川さん)
関心を持ってほしくて東さんは知恵を絞る。『月夜のからくりハウス』のコピーは刺激的だ。
《見世物小屋のドキドキ感が復活!》
「テレビ画面や一般の舞台で彼らのことを見慣れていないから、現実の社会でも見て見ぬふりをされて、街に出にくいから、ますますいないことになる。この悪循環をなんとかしたいんです」(東さん)
障害者が登場する舞台を「けしからん」と怒る人には、無自覚な差別意識があるのではないかと東さんは言う。演者の1人、佐藤ひらりさんの母親・絵美さん(43)も同意見だ。
「娘も私も、『日本のスティービー・ワンダーを目指す』って勝手に言ってるんですけど(笑)。そのためにも、見てもらってナンボなんです」(絵美さん)
ちなみにチケットは公演の2週間前に完売した。
「この『月夜のからくりハウス』には弱者は一人も出ていません。皆が対等な立場で舞台に上がって、チケット代をきちんといただいて、彼らにきちんとギャラをお支払いする。そういう舞台です」(東さん)
この舞台の先に、東さんが目指すのは――。
「色とりどりの人たちが街に、ごく普通にいる社会。それはきっと誰にとっても居心地のいい社会だと思います」(東さん)