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未曽有といわれた大災害でさえ、記憶は時間の経過とともに薄れていく。3.11をテーマにした映画『生きる街』(公開中)で主人公を演じた夏木マリは、出演の理由をこう話した。

 

「理由は2つあります。1つは時が経ち、震災を忘れかけたころに見ていただけるであろうこの映画に出る意味があると思ったこと。2つ目は、千恵子が普通の女性だったんですね。妖怪(の役)とかが多いものですから、わりとこういう役がない。演じてみたいと思いました」(夏木・以下同)

 

撮影は宮城県沿岸の集落で、’16年に行われた。いまだ震災の爪痕が色濃く残る被災地の様子を振り返る。

 

「津波の被害に遭われなかった高台には住宅が残っていて、被害に遭った浜のほうは平地で、トラックが砂利をなめしているような状態。景色が2つに分かれていたのをとても覚えています」

 

本作は、民泊を営んでいる主人公・千恵子の日常を描く。千恵子は明るく元気な女性ではあるけれど、“あの日”から帰ってこない夫がいた。

 

「ふだんから明るくふるまっているおばちゃんだけど、津波という大きな経験をして思うことはいろいろある。彼女の切なさを感じましたね」

 

千恵子との共通点を聞くと「私はこんなに強くないと思う」と意外とも思える返事が。多くの人々が夏木に抱くのは、生きざまのかっこよさ。そこには強さも感じられるからだ。

 

「強く見えるんですね。そういう役が多いから。でもわりとくよくよもしますし、女々しい。落ち込んだときはおいしいものを食べて寝る(笑)。それが解決法です」

 

’73年に歌手としてデビューし、今年で芸能生活45年。その間に肩書は俳優、声優、演出家……と増えていった。

 

「あっという間の45年で、何が身についているだろう? という感じ。いろんなアプローチをしながらいろいろなことを楽しんできたという実感はあるんだけれど。アドバイスですか? 頭でいろいろと考えるより、行動すること。『とにかく行動せよ』『動け』というところでしょうか」

 

ファッショナブルな着こなしと裏腹な物腰の柔らかさ。本作はかっこいい大人・夏木マリの10年ぶりの主演作だ。

 

「いろんな愛を感じてもらって、生きることがすてきだと思ってもらえたら」

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