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「完成作品は、100時間弱あったOKテイクの中の2時間ですから。劇中に映ってない記憶もいろいろとよみがえってくる日々ですね」

 

撮影の感想をそう語ったのは、日仏合作映画『Vision』(公開中)に主演した永瀬正敏(51)。世界を代表する映画監督の1人、河瀨直美との3度目のコンビ作となる。本作は、奈良・吉野の森を舞台に「あらゆる人の精神的苦痛を取り去る」幻の薬草“Vision”をめぐり、フランス人女性と森で生きる人々との不思議な縁を描いた物語だ。

 

永瀬は、森林保護をする山守の男・智を演じる。撮影は、吉野の山中で夏と秋に分けて行われた。

 

「監督からミッションを与えられて、撮影のある日もない日も山守として暮らしました。智はコウという猟犬と暮らしてるんですが、朝起きて、コウと散歩しながら山の状態を見るのが日課。あとは枝打ちに畑仕事、時間が余れば薪割りと、まぁやることがいっぱいあるんです(笑)」(永瀬・以下同)

 

撮影時には、カメラ位置すら教えられない。役作りではなく、役として生きる役者の姿をとらえる。それが河瀨の演出法なのだ。

 

「暮らしに足りないものとかは、軽トラに乗って往復1時間の山道を買い出しに行くんです。いろんなハプニングがありましたね。コウを荷台につないで軽トラで走っていると、彼は獣の気配がしたら本能で飛び降りちゃうんです。首がつられちゃって、慌てて止めて抱き上げたり。きっと智もこういうことを経験しているんだなと」

 

永瀬にはおなじみの現場も、ヒロインを演じたフランスの名女優、ジュリエット・ビノシュには未知の体験であったろう。

 

「河瀨組では役者同士の私語も厳禁です。最初、ビノシュさんは戸惑われたかもしれませんね。『一緒にごはん食べよう』と誘われても、俺が反応しないので。智として話すのはいいけど、永瀬正敏として『あの映画のときってどうだったんですか?』とかは聞けない。もっと話したいこともいっぱいあったのに、むちゃくちゃ、残念です(笑)」

 

なによりも忘れられないのは、愛犬・コウとの思い出だという。

 

「物語の途中でコウと離れてしまうんです。そうすると、現場でもコウに会わせてもらえないので、本当に立ち直れなくて。このままの気持ちじゃ帰れないと、撮影が終わってから会いに行きました。別れるとき、彼がずっと目で追ってくるんです。その顔にまたグッときて。連れて帰りたかったです」

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