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「令和の御代に改まりまして、若き天皇陛下が新しい象徴として、私どもに寄り添ってくださることを、国民の一人として大変うれしく、また誇らしく思っております」

 

11月9日に行われた「天皇陛下御即位をお祝いする国民祭典」で、祝辞を述べた松本白鸚さん(77)。昨年1月、息子の松本幸四郎(46)、孫の市川染五郎(14)とともに、37年ぶりの三代襲名を行ったことに触れるとこう続けた。

 

「37年前、父(先代白鸚)は襲名の“名”は“命”だと申しました。伝統に命を吹き込むのは、まさに令和に生きる私どものつとめだと思っております」

 

平成から令和に御代替わりする記念すべき年である2019年。歌舞伎役者・松本白鸚にとってもまた記念すべき年になった。

 

今年8月に喜寿を迎え、主演・演出を務めるドン・キホーテを主人公にしたミュージカル『ラ・マンチャの男』は日本初演から50年、10月には1,300回公演という偉業も達成した。先月には、白鸚を襲名してから初となる著書『句と絵で綴る 余白の時間』(春陽堂書店)も出版。

 

「そして、今年の12月には金婚式も迎えます。家内が支えてくれたからこそ、無我夢中でここまでやってこられたのでしょう」

 

インタビュー場所となった都内の自宅でそう言って笑う白鸚さん。その傍らで、妻の紀子さんが恥ずかしそうに微笑んだ。

 

■被災地から…サンマの上にこぼれた涙

 

白鸚さんは人々に、悲しみや苦しみも希望に変えて、生きる喜びを与えることが、俳優の仕事だと考えている。だから、東日本大震災の直後も公演を続けたし、被災地も巡ってきた。でも、ときにはファンに勇気づけられることも。

 

「’12年に文化功労者に選んでいただいたとき、立派なサンマを3匹贈ってくださった方がいた。どなたかわからないので、手を尽くして捜したら、岩手県の仮設住宅に住んでいる女性の方でした」

 

ーーあなたの『勧進帳』と『ラ・マンチャの男』に勇気づけられたので、お祝いです。

 

お礼の電話をかけたら、こう返された。その夜、夕飯に食べたサンマの上に、大粒の涙がこぼれ落ちた。紀子さんはこう続ける。

 

「この前、やっとその方にお会いできたんです。わざわざ東京まで『ラ・マンチャの男』を見に来てくださって、楽屋でお話ししました。また、元気をいただきましたよね」

 

半世紀にわたり、悲しみも喜びも分かち合ってきた夫婦。白鸚さんは“松本白鸚を襲名してからは、アディショナルタイム”だとほほ笑む。サッカー用語で、前半後半の後に追加される時間のことだ。

 

「でも、点が入ることもあれば、逆転することだってある。日本語は“余白の時”と名付けました。家内は、僕が句を詠んだり絵や書をかいたり『そんなときがいちばん楽しそう』と言います。『籐椅子に妻まどろむでゐたりけり』。僕はうたた寝する家内の句を隣で詠む。そんな夫婦です(笑)」

 

最後に「金婚式は何をされますか?」と聞いてみた。

 

「そうですね。子どもたちももう独立して忙しいし。家内と2人で密かに静かにかな……ね?」

 

紀子さんも静かにうなずいた。金婚式を迎える12月5日も名優松本白鸚は、東京国立劇場の歌舞伎の舞台に立っている。夫婦伴奏は令和も続いてゆく。

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