■「覚悟があるなら母の意思を尊重したい」
今年の春、須美子さんの腎臓の数値が悪化。入院の後、現在は弱った足腰を鍛えるために、一時的に介護施設で暮らしている。
「たまに『家に帰りたい』とこぼすんです。だから母に『家に一人で帰って倒れて、誰にも発見されんで死んでも、それはあんたの責任だからね』ってくぎを刺したら『わかった』って。覚悟があるなら、お母さんの人生だから本人の意思を尊重したいと思っています」
ただ、コロナ禍の今年は、年末年始の一時帰宅でさえ、ハードルが上がったという。
「今は私がPCR検査で陰性でも、母と会って1カ月間は介護サービスを受けられなくなるんです。もちろん、施設にも戻れません」
大雪の中、母を家に一人きりにしたくはない。しかし--。
「本人は家に帰りたがっているし、もう92歳。来年会えるかどうかもわかりません。だから、今回も正月に家で会おうと思っています」
家に帰るために、奮闘する須美子さんの姿に、柴田さんは感謝の思いを抱くことがあるという。
「母がこう生きたいという目標を立てて、リハビリを頑張っているのを見ると、年をとってからの生き方を教えてくれてるんだなぁって、思うんです」
教師だった須美子さんが柴田さんに、身をもって教えるのは、最期へと向かう生き方かもしれない。
(取材・文:インタビューマン山下)