「私自身、この一年間はテレビのレギュラー番組以外のお仕事は、ほとんどお断りさせていただきました。ずっとコロナ禍でしたから、講演のお仕事もキャンセルするなど慎んでおりました」
そう語る美輪明宏さん(86)。それでも、この一年で感じることができた“明日への希望”とは? 美輪さんがコロナ禍“負の一年”を振り返るーー。
■自然にほほ笑みを振りまける大谷選手が明るい希望
今年は寂寥感もあった一方で、“これぞ日本だ!”という希望もたくさん生まれました。とくにうれしく思ったのが、日本の若者たちの活躍でした。
メジャーリーガーの大谷翔平選手は、満票でMVPを獲得されました。試合中のベンチの様子もよく映されていましたが、彼はチームメートと仲がよくて、みんなから好かれていることがよくわかります。
日本人のいいところは、ほほ笑みを振りまくことができること。大谷選手はそれを意識的にするのではなく、自然にやっていますね。野球の本場アメリカで、文句なく認められたわけですから、素晴らしい。コロナ禍の日本に明るいニュースを届けてくれました。
またゴルフでは、アメリカのマスターズ大会で、日本人初の優勝を成し遂げた松山英樹選手。優勝したら跳んだりはねたりして喜ぶのかと思ったら、彼は平然としていました。ちょっとお太りになられたせいもあるのかも(笑)。
テレビで試合を見ておりましたが、さすがにこれは無理だろうと思うような場所からでも、冷静に正確なショットを打ち、崩れませんでした。その集中力とメンタルの強さにはびっくりしました。
国内では、将棋の藤井聡太竜王が、また史上初の最年少記録(四冠)を更新されました。実力もさることながら、19歳の若さで、あれだけの礼儀作法を身につけていらっしゃるのですから感心いたします。
対局で座敷に入ってくるときの入り方、歩き方を見ても、畳の縁を踏まないような規則正しい歩き方をなさっています。着物もいい物を着てらっしゃるし、着こなしもいい。
そして4時間も5時間も座っていても、身じろぎもせずに姿勢を崩さない。さらに将棋の指し方も、おごることなく静か。とても丁寧でエレガントです。五冠になるのは時間の問題ではないですか。
音楽界では、ピアニストが目指す世界最高峰の舞台といわれている「ショパン国際ピアノコンクール」で、反田恭平さんが第2位、小林愛実さんが第4位に同時入賞するという快挙がありました。
このように、日本の若い人たちがスポーツ界のみならず、さまざまな分野で活躍されています。そういう姿を見るたびに、希望の光が見えてきます。“日本もまだまだ捨てたもんじゃない”ーーと。
9月末に緊急事態宣言が解除されてから、イベントなどの入場規制なども元に戻りつつありますが、まだまだ安心できないですね。
私は86歳です。昔から気管支炎の持病がございますから、とくに慎重にならざるをえません。
コロナ禍になる前のように、お芝居や音楽会を開催して、もし私が感染したら、イベントそのものが中止となり、スタッフやお客様に大変なご迷惑をおかけすることになります。
そして何よりも、イベントに来られたお客様のなかから感染者が出るようなことだけは、絶対にあってはなりません。
とにかく、私は人様にご迷惑をおかけすることがいちばん怖い。だからできるだけお仕事をセーブしながら、安心できる日が来るのを待つことにしたのです。毎日自宅で、ストレッチや運動などをしながら、私自身の体力を維持するための生活をずっと続けております。
この2年近く、世界中がコロナ一色でした。いま日本は感染者数が減少しておりますが、私はこの状態がずっと続くとは思っておりません。オミクロン株だけでなく、また別の新たな変異株が、いつどこで出現するかわかりませんからね。
“第5波”のような感染拡大が、再び起きる可能性はゼロではありません。このまま皆さんが安心して、何もかもが開放的になってしまうことがいちばん怖いですね。
気が緩みがちないまこそ、「勝って兜の緒を締めよ」ーー。来年を無事に乗り切るためにも、この言葉を胸にお過ごしください。