■ネガティブ思考でペンの動きが止まる
その次に、蛭子さんの目の前に、展覧会用のイラストボードが用意された。
ただならぬ雰囲気に蛭子さんの表情が固まった。
すかさず大倉さんは、バッグから競艇専門誌『ボートボーイ』を取り出し「今日は大好きなものを描きましょう」と話しかけた。たちまち目を細めてページをめくり始める蛭子さん。
「オレは、ボート走って行くときに、波があがるところが好きなんだよね」と、イラストボードの中央に競艇のボートを描き始めた。
認知症になってから蛭子さんの絵は、紙の隅に小さく描かれるのが特徴だった。大胆な構図が魅力の蛭子さんが戻ってきた? そんな矢先、「実は、オレは競艇でずいぶん負けました。家族にも怒られたんですよね」とぽつり。
蛭子さんの手が止まった。絵を描いていくうちに競艇に対するネガティブ思考が充満してきたようだ。表情も硬くなる。こうなると絵は進まない。さあ、どうなるか?
【後編】“最後の絵画展”蛭子さんの今が描かれた作品が完成!へ続く
※今回、蛭子さんが体験したのは臨床美術の手法によるコミュニケーションを通した絵画制作であり、実際の臨床美術のプログラムとは異なります。
臨床美術についてお知りになりたい方は、芸術造形研究所ホームページをご覧ください。
http://www.zoukei.co.jp/