■刺激的な内容で話題となった野島作品
笛木さんが、野島伸司という名前を意識して見始めたのは『高校教師』(’93年・TBS系)から。
「学校の先生と女子生徒の恋愛や、自殺などを扱っていて、過激すぎる内容。目を背けたくなるような描写もあって、子どもながらに“見ちゃいけない”と思いつつ、それでも先が気になる。背徳感を抱きながら、つい見てしまうんです」
家族の絆を感じたのは『ひとつ屋根の下』(’93年・フジテレビ系)だった。
「パート1も2も、全話見ています。忘れられないシーンはたくさんありますが、なかでも思い出深いのは、足の故障で選手生命を断たれたあんちゃん(江口洋介)が、それぞれトラブルや問題をかかえたきょうだいを一つにするためにマラソン大会に出場したシーン。ラストで、片足を引きずりながらゴールへと走るあんちゃんのもとに、きょうだいがみんな集まって応援する。ゴールのシーンはスローモーションになって、チューリップの『青春の影』が流れるのですが、思い出すだけで大号泣。野島さんの作品は、内容ばかりでなく、音楽もすごくいいんです」
『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(’94年)、『未成年』(’95年・ともにTBS系)なども刺激的な内容で話題となった。
「『人間・失格』で、KinKi Kidsの2人が演じたプールのシーンでは同性愛が描かれていてドキドキ。いじめや体罰など、とにかく情報量が多くて、感情面がパンク寸前になりながら、次回が気になってしょうがない。野島作品を見ると心がえぐられるのですが、そのたびにドラマを通して人生経験を積んだような感覚になっていました」
こうしたドラマの影響により、芸能界へのあこがれはさらに強くなった。
「オーディション番組の『ASAYAN』(’95~’02年、テレビ東京系)に応募したいなと思っていたのですが、通っていた高校は芸能活動が禁止。学校をやめるほどの勇気はなくて……」
ところが’98年、高校の卒業を控え、短大への進学が決まったころに、原宿のラフォーレ前でスカウトされた。
「実際に演技をすることになると、相手の目を見てセリフを言うだけで、恥ずかしくて顔が赤くなるんです。もう、無力感ばかり。ドラマは好きでしたが、単なるファンとして見ていただけ。野島作品に出てくるような、感情を揺さぶる演技をつぶさに研究していれば、もっと厚みのある演技ができたのにって、後悔していました(笑)」
毎日のようにオーディションに挑戦し、ことごとく落ちた。
「でも、もう諦めようかなと思うころに限って、たまに合格したりするんです」
そんな状況を繰り返すうちに、ドラマの仕事が徐々に増えていき、女優として成長していった。そして’17年には『雨が降ると君は優しい』(Hulu)で、野島作品への出演を果たした。
「野島さんの台本を手にしたときは感慨深かったです。最初は怖い人というイメージだったのですが、実際にお会いすると、すごく気さくで面白い人。でも、ご本人には『ファンです』とはなかなか言い出せず、ドラマの打ち上げが終わって帰るとき“一生、会えないかもしれないから言っておきたい”と思って、ようやく伝えることができました。すごく喜んでくださったのですが、あまりに唐突だったから“ヘンな人”って思われたかもしれないですね(笑)」
思春期に衝撃を受けた野島作品があったからこそ、今の女優の仕事へとつながっていったのだ。
【PROFILE】
笛木優子
’79年、東京都生まれ。日本でのデビュー後、’01年韓国ドラマ『わが家』にユミンの名前で出演し人気を博す。韓国大作ドラマ『IRIS』(’09年)、『美しき人生』(’10年)にも出演するなど、日韓のドラマで活躍する。’18年に結婚、’20年に男児を出産し1児のママとなった