■テレビに出れば友達が見てくれる
「そんなときです。子役養成所のオーディションの広告を見つけて咄嗟に『これだ!』と。母に内緒で応募したんです。
でも、俳優になりたいと思ったわけじゃなくて。ただ、テレビに出たかったんです」
このとき、富田は中学1年生。まだ携帯電話も持っていなかった。
「とにかくテレビに出られたら、いわきの友達が見てくれるんじゃないか、そう思ったんです」
このときもまだ、胸中にあったのは故郷のこと。そして、その思いが、結果的には彼女を芝居の世界へといざなったのだった。
「エキストラやレッスンをして。中学3年で最初の出演作になる映画『ソロモンの偽証』のオーディションに合格したんです」
主要キャラの役を射止めた富田。役作りのために15キロ増量を経て撮影に臨むなど、デビュー作とは思えぬプロ根性を見せる。
「役に近づきたい一心でした。このとき、監督からは『ご飯食べるのが好きなコだから』って言われて。そのコを演じるなら、私もいままで以上にご飯が大好きにならないといけないなって。そう思ったんです」
気付けば増えた体重と同じぐらい、演じることへの興味も膨らんでいった。
「私、お芝居がしたいんだって気がついたんです」
その後は、話題作への出演が相次ぐ。映画『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』では、やはり役作りのために増量を敢行。
「家庭環境に恵まれていない役柄だったので、ご飯ではなく、菓子パンやお菓子で太るように。そのほうが彼女の心情に近づけると」
いっぽう、教室に監禁される生徒役を演じたドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ系)のときはーー、
「ふかふかのベッドで寝てたら、教室の硬い床で寝かされてるコの顔になれないと思って。家でも椅子で寝てました。
私、ちゃんと段階を経て、積み上げていかないと安心して演じられないんです。不器用だと思うし、心配性なんです」
昨年末には、演劇界の鬼才と評される福原充則氏演出の話題の舞台『ジャズ大名』にも出演、狂言回しの「やこ」という重要な難役に挑み、注目を集めた。
間もなく俳優デビューから丸8年を迎える富田。その出発点にあったのは、やはりあの苦い記憶。
「震災がなかったらこの世界に進んでなかったかなとは思うんです」
ここまで言うと「でも」と言葉を継いだ。
「母から聞いたことがあるんです。私の父は、まだ母のおなかにいた私に対してすごい夢を持ってる人だった、と。
『この子が生まれてきたら、とにかく興味を持ったことを好きなだけやらせてあげたい、好きな人生を歩ませてあげたい』って、そう話してたそうなんです。
だから、震災がなかったとしても、父が生きてたら、背中を押してくれて、やっぱりお芝居をやってたかなって。それが運命だったのかなって思っているんです」
【INFORMATION】
筒井康隆原作、千葉雄大、藤井隆らも出演する舞台「ジャズ大名」は今月、愛知・刈谷市総合文化センター(1/13~14)、大阪・高槻城公園芸術文化劇場(1/20~21)で上演。
詳細は公式サイト(https://www.kaat.jp/d/jazz_daimyo)