【前編】『侍タイムスリッパー』監督 制作費ほぼ自腹で通帳残高6275円も「まだ1円も入っていません」から続く
会津弁の新左衛門が、現代に来て初めて、白米のおにぎりやショートケーキを食べて「日の本はよい国になったのですな」と感動したり、テレビ時代劇の人情物語に涙するなど、現代の暮らしに驚きながらひたむきに生きる姿に「応援したい」「愛すべき存在」「涙出た」と客席から泣き笑いが起こる。
そして「彼らにまた会いたい」とリピート鑑賞する人も多いのだ。
「劇中の新左衛門は“豊かになった”と心から素直に感動しますが、今の世の中に至るまでに戦争もありましたし、また『今の時代、新さんが喜ぶほどのいい世の中なのか?』と観ながら自問してほしい」(安田監督、以下同)
最大の見せ場は、やはりチャンバラ。“真剣”を使った新左衛門と風見の殺陣の場面は、黒澤明監督作品『椿三十郎』の仲代達矢と三船敏郎へのオマージュと、安田監督の映画愛もあふれる。
「『真剣を使い撮影を』という場面の風見役の冨家さんからあふれる涙は本人のアイデアです。ラストの殺陣は3日かけて徹夜で撮影しました。2人には現場でケンカになりかけるほど、苦労をかけましたが、映画の主演男優賞、助演男優賞を取ってほしいです」
8月のカナダのモントリオール「ファンタジア国際映画祭」で観客賞金賞を受賞。10月には、東京の映画館で「大ヒット感謝舞台挨拶」もおこなった。
「俳優さんに役衣装を着て場面を再現してもらいました。京都から床山さんを連れていき、俳優さんにもお礼をしたので、総額60万円ほどかかりましたが、お客さんに喜んでほしかった。費用は父の遺産から支払っています(笑)。追加で必要となった製作費30万円も父の遺産から出しました(苦笑)」
でもなぜ、時代劇だったのか。
「子供時代、学校から帰って夕方から『遠山の金さん』『銭形平次』『水戸黄門』を、おばあちゃんと一緒に見てました。中学生からは『必殺仕事人』と、ずっと時代劇で育ってきた世代です」
物語の後半、撮影所所長役が、「一生懸命頑張っていたら、どこかで誰かが見ていてくれる、ほんまやな~」としみじみつぶやく。
■家族みんなで見て笑って元気になる作品
「僕が伝えたいのはそこなんです。最近は暗い映画が多いけれど、困難な状況に陥った主人公が乗り越えていく姿を、家族みんなで見て笑って元気になってもらう作品を撮っています。
子供のころ見ていた時代劇の『暴れん坊将軍』のめ組の人たちが、困った人を助けて、『おとっつぁんを捜そう』と、一銭にもならない人助けを一生懸命にやりますよね。今は、何かあるとすぐ炎上する時代。だからこそ、本作も心地よく見られると思います」
読者の方には、「ぜひご主人とデートで鑑賞してほしい」と監督。
「タイムスリップがテーマですが、映画館が、“昭和のお茶の間”にタイムスリップするので、夫婦で青春時代に戻り、笑って泣いて素直に感情を出して、そして最後には手をたたいて楽しんでほしい」
夫婦で出かけて、一緒に映画デートをした、あの頃のときめきを思い出してみては?
米農家としては、今年1.4ヘクタールの田に稲を育てた。そして来年も米不足になるだろうと指摘する。
「映画は、努力や人為的になんとかなりますが、農業はどうしようもできないことも多い。肥料や燃料が高騰し、でもお米は安く買われていく。来年は今年よりも米不足になり、5年、10年で米農家が壊滅するぐらいの勢いです。僕は映画がヒットしたから何年かは米作りができます」
最後に、大ヒットした収益が入ってきたら何に使うかを聞いた。
「基本的には、スタッフの皆さんに、安く手伝ってくれたので大入り袋を。そして農作業に使う軽トラを買いたい。あとは預金しておこうかなと思います(笑)」