ポール・ギルバート ギター・インスト・アルバム『FUZZ UNIVERSE』をリリース!
人気ロックグループ、Mr.BIGのギタリストで、音楽雑誌の読者人気投票では、毎度、軒並み高い支持を獲得しているポール・ギルバート。作年は、 Mr.BIGの再結成に始まり、世界ツアーにと大忙しだったはずなのに、いったいいつの間に?という早ワザで、ギター・インスト・アルバム第3弾!『FUZZ UNIVERSE』をリリースした。曲のタイトルにこめられた面白エピソードから Mr.BIGの新作状況までたくさんの話を披露してくれました!
―― 昨年は、ポールにとってとても忙しい年でしたね?
ポール・ギルバート(以下ポール)うん、確かに2009年はとっても忙しかったけど、その忙しい過中を楽しんでいたよ!
―― もう、数え切れないほどの来日回数だと思うんですが・・・・
ポール ハッハハ(笑)・・・絶対正確じゃないと思うんだけど・・・たぶん・・・30回以上だね。
―― 日本とアメリカの往復回数券とか買われたほうがいいんじゃないですか?
ポール その通りだね(笑)。初めて来日したのが1989年。で、あれから20年以上は経っていて、毎年1年に1度以上は来ているから・・・計算すると・・・やっぱり30回以上だね。
―― 昨日は、銀座山野楽器本店でプレミア・ミニ・ライブを行ったそうですね。オーディエンスの反応はいかがでしたか?
ポール うん、とっても良かったよ!今回、日本では初めての試みだったんだけど、ベースプレイヤーとドラマーを従えたバンド形式でジャムセッションをしたんだ。もちろんいつものように、ニューアルバム『BUZZ UNIVERSE』のCDに、音を重ねて演奏するといった方法で、何曲かはやったんだけどね。他のカヴァーアルバムは2人のミュージシャンと演奏してみて、最高に楽しかったよ。
―― 他国でも同じようなやり方で演奏されているんですか?
ポール 理由は忘れたんだけど、イタリアで地元のミュージシャンと演奏してみて、「これは楽しいな」って感じたのをきっかけに、最近ではよくやっているんだ。
―― ニューアルバムについてお尋ねします。昨年はMr.BIGの再結成に始まり、ツアーもあって、いったいいつの間にアルバムを制作していたのかな~って不思議に思っていたのですが・・・
ポール だいたいいつもアルバム制作には3カ月くらい費やすんだけど、今回の場合は昨年の11月にMr.BIGのツアーが終わって、LAに戻って来てから4~5カ月くらい費やしたかな?いつもよりちょっと長くね。その間にクリスマスやニューイヤー、アメリカの大きな祝日が過ぎたりしてね。まずは指の練習から開始したんだ。いつもクラシック曲で、指を慣らしていくんだ。今作にも入っているバッハを弾いたりしながらね。それから6週間ほど、毎朝起きてからYou TUBEでB.B.キングの映像をみながら練習!「あ~痛い、あ~痛い」を連呼しながら、がまんして指の腹を硬くしていったんだ。だから、今回はいつもより準備期間を要したかな。
―― いろいろなミュージシャンの方に話を聞くと、自身が経験したことや、様々な出来事からインスピレーションを受けて、詞や曲が生まれていくようですが、オール・インスト(ギターだけの曲)アルバムというのは、どこから、どうやって曲のフレーズが浮かぶんでしょうか?
ポール 僕の場合、フレーズはまるで言葉を話すように、ギターが語っているんだ。ギターが話していて、歌っていて、リズムもあるって具合に、ちっちゃなアイデアをつなぎ合わせていく工程で曲が生まれていくんだよ。さっきもバッハから練習するっていったけど、バッハってフレーズの神様というくらい、曲に面白い繋がりがあるんだ。そこからたくさんヒントを得ているよ。時々音楽ツールを使うけど、どんな早口言葉だって、早弾きギターにはかなわないでしょ。ギターにはそれができる。ユニークなサウンドを持った楽器なんだ。でもいつも早口言葉でしゃべっていられないように、時々は歌を歌うようにスローに弾いてみることもあるよ。そういう時は、適当な言葉をつけて口ずさみながら弾いているんだ(笑)。その典型的なのが12曲目の『Batter Up』って曲。何を言ったか覚えてないけど、最初は言葉があって、適当に歌いながらどんどんフレーズが生まれていったんだ。
―― 1度、ポールの曲を、子供でも誰でもいいんですが聴いてもらって、そこから想像されるものやことを描かせてみせたら面白いんじゃないかな~て思うんです。ユニークな曲がたくさんあって、リスナーもいろいろな捉え方をすると思うのですが・・・
ポール う~んなかなかクールなアイデアだね。人はみんな違うし、美しいと思う基準や観点も違うよね。“アート”とひと言でいっても、映画も、音楽も、美術も、ファッションもいろいろある。僕にとっては音楽だけど。例えばレストランなんかでは気持ちイイ音楽がかかっているけど、僕の作る音楽は絶対BGMになんかならない。100%耳を傾けて集中して聴く音楽だと思うんだ。多分僕の音楽でご飯を食べるのは無理だよ(笑)。ご飯のほうよりも、音楽に集中して聴き入ちゃうんじゃないかな?。でもそれは僕が目指しているものでもあるよ。あっ、ちょっと話が変わっちゃうけど、僕の音楽のセオリーでは、素晴らしいミュージシャンに限って超バッドなファッションセンスなんだ。音楽に夢中で、着る洋服まで気にしないんだね。『RUSH』(注:カナダのプログレッシヴ・ロックバンド)のドキュメンタリー映画を観た?彼ら本当にダサいよ(笑)。別に、どんなパンツ履こうが、どんな服を着ようが構わないんだけど、ダサくてもとにかく曲が最高にカッコ良いいんだ。
―― 覚えてますよ。以前、『ヤングギター』マガジンの付録で、100本のギターと100通りの衣装に着替えてDVD映像を撮られてましたよね。
ポール ああ、あれがいい例だよね。ほとんどの洋服がダサかったでしょ(笑)。
―― とても面白い企画でした。ポールはとても集中力があって、オールナイトで朝までレコーディングしちゃうほど、と聞きしましたが、そのエネルギーはいったいどこからくるのでしょうか?
ポール それは僕自身がアルバム制作に興奮しているからだね。クリスマスの日って、子供たちはどんなプレゼントが届くのか楽しみに待っているでしょ?同じように、海を越えて僕からのプレゼント(このアルバム)を楽しみに待っていてくれる世界中のファンに、できるだけ最高のプレゼントが贈れるようにって考えたら、寝る時間を削ってでも、作らずにいられなくなっちゃたんだ。
―― クリスマスじゃない時期に、クリスマスのような最高のプレゼントが受け取れるなんて、ファンはとても喜んでいますよ。
ポール アリガトウ!
―― 曲のタイトルですが、なんだかユニークなネーミングが随分とつけられていますよね~。いくつか紹介してください。
ポール ちょっとみせてくれる?(CDを手にして)
例えば、3曲目の『The Count Juan Chutrifo』。日本語のタイトルで“フォアン伯爵”っていうんだけど、英語で発音してみると、“カウント・ファン・チュトリフォ”って“1,2,3,4,(ワン・ツー・スリ―・フォー)”に聞こえない?ゴロ合わせといったところかな?でも、曲を聴いてもらってもわかるように、この曲のリズムは変則な曲で、1,2,3,4,ってカウントしてもいないんだよ。そこが面白いでしょ!?また、10曲目の『BLOWTORCH』って曲はね、自宅にあった古いアンティークのマーシャルアンプをセッティングして、レコーディングし始めたら、凄くいい音がでたんだけど、1時間くらいして、どこからか、クレーム・ブリュレのような甘い焼ける匂いがして来たんだ。クレーム・ブリュレってデザートは、表面をBLOWTORCH(ガスバーナー)を使って焦がすでしょ?なんで僕のスタジオでクレーム・ブリュレの匂いがしてくるんだ???って思って匂いの出所を探してみたら、そのアンプから白い煙が黙々と出ていたんだ!すぐにスイッチを切って、ガレージに運び出して大事にはいたらなかったけどね。そんなこんなで付けたタイトルが『BLOWTORCH』だよ。
―― 面白いですね~!
ポール それからね、アルバムタイトルの『FUZZ UNIVERSE』。FUZZにはいろんな意味があると思うんだけど、まず何が浮かぶかな?
―― そうですね~曖昧とか、やわらかい、アンニュイな感じでしょか?
ポール 僕の使う意味はただ1つ!ほとんどのギタープレイヤーはいろんなエフェクターを使って音を変えるよね。ディストーションだったり、オーヴァードライブだったり、ゲインだったり。僕らはそれらのサウンドの歪をFUZZと呼ぶんだ。僕は人生のほとんどを、その歪の追及に注いできているわけ。だからFUZZの世界に生きているってことで、『FUZZ UNIVERSE』なんだ。
―― 宇宙規模で生きていると。ポールは深いですね~。宇宙と言えばカール・セーガン(アメリカの天文学者で、SF作家)にもとても興味があるそうですね。
ポール ライナーノーツにも書いたんだけど、ぼくの大好きな宇宙に関する先生だよ。僕にとってヒーローのひとりだね。彼は皆が頭を抱え込んじゃうような複雑な考えも、わかりやすく説明するんだ。ギターを教えるのにも同じ方法で簡単に出来たらいいなって思うんだけどね。複雑な音楽理論や、ギターのテクニックだったりを言葉で説明するよりも、わかりやすく聴いてもらえるような曲を僕も作っていきたい。そういう面では、彼は本当に天才的ヒーローだよ。
―― では、音楽の話から変わりまして、日本通のポールですが(過去に住んでいたことも!)お気に入りの場所はある?
ポール うん、東京のマンションに2ヵ月だったり4ヵ月だったり、いろいろなところに住んでいたよ。近所の焼鳥屋さんやラーメン屋にはよく行ったな~。そうそう大好きなフレンチレストランは四谷三丁目にあってね、今でも行けば懐かしいな~って感じるよ。
―― ポールの奥様は日本人でいらっしゃって、ポールのバンドではキーボードも弾かれるプロのミュージシャンでもあり、ポールにとっていちばん大切なひとでもあり、公私で支えられているわけですが、(コレ、本当に余計なお世話ですが)1日のほとんどの時間を一緒に過ごすのって正直大変じゃないですか?秘訣はどこに?どのように両立されているんでしょうか?
ポール う~ん・・・多分、ツアーでは彼女はキーボーディストとして一緒に世界をまわったけど、ベーシストもドラマーも一緒にいたわけで・・・・みんなが家族のように過ごしていたからあまり違和感もないし、意識もしないし・・・というか、好きな人とはただずっと一緒にいたいだけだよ。そう思わない?
―― そうですね。とても仲睦まじい様子が伝わってきます。そんなお話しを聞いたあとでなんですが、今日は七夕で1年に1度ひこ星と織り姫が今宵あえる日なんです。もしポールが1年に1度の女性と会うとしたらどんなシチュエーションを演出して迎えますか?
ポール 1年に1度しか会えないなんて、僕には絶対無理!もし今夜会えたらこう言っちゃうよ!“ごめん、もうやってられないよ!いつでも一緒にいられる誰かイイ人探すよ”ってね(笑)。
―― では、MR.BIGのアルバムの方の進捗状況を教えてもらえますか?
ポール また4人で集まってジャムって、アイデアを出しながらぼちぼち楽しみながらやっているよ。昨年のツアーは本当に刺激的だった。14年間が空いて、新譜を出すというのはとっても興味深いチャレンジだった。ツアーでは昔の曲を弾いて、体力的にもちゃんと歌えるか、弾けるかがチャレンジだったけど、今度もまた素晴らしいアルバムを作るために良いメロディーとか、グレイトなロックだとか、これからどんなものが生まれるか凄く楽しみだよ
―― クリエイティヴな4人が集まったバンドですからね、ファンは期待大ですよ。今作に伴うソロツアーの方は?
ポール はっきりとはまだだけど、是非そう望みたいね。でも僕は80歳までギターを弾き続けるつもりだから、今がその時じゃなくても、いつかはやるよ!
―― とても楽しみにしています。読者に、このアルバムの聞きどころをお願いします。
ポール みんなそれぞれ個性があって好みが違うと思うけど、バッハの曲なんかは妻も感動して涙したエモーショナルな曲だし、ファンキーなナンバーも入っているし、とにかくメロディー満載なんできっと気に入ってもらえるよ!万が一気に入らなければ、ボーイフレンドにプレゼントすればきっと喜んでくれるよ!
―― どうも有難うございました!
ポール あっそれからもう1ついい?もし、彼がミュージシャンで、汚くってダサい恰好でギターを弾いていても許してあげて!きっと素晴らしいミュージシャンになるからね。
【プロフィル】
★ ぽーる・ぎるばーと★
‘66年11月6日生まれ。アメリカ、イリノイ州出身。5歳の頃から両親の影響で、ビートルズやジミ・ヘンドリックス等を聴きはじめたのを機に音楽に目覚め、9歳でギターを始める。‘86年、自身のバンド、レーサーXを結成し、プロ・デビューを飾る。 ‘88年に脱退後、米・モンスターバンドMr.BIGへ参加。‘96年にバンドの活動停止と同時にソロ活動を開始。他を圧倒する高度なギターテクニックと明るいキャラクターで日本でも一躍人気者に。‘09年Mr.BIGの再結成による、リユニオン・ツアーを大成功に治めた。