最近ではイベントの終演後に会場の出口や指定された場所でアイドルがファンを送り出す「お見送り会」なるものが頻繁に開催されており、これもCD購入でもらえるスクラッチカードや1枚600円程度のファンクラブ限定くじで特典券をゲットしたラッキーな人しか参加できない。その場から動かず笑顔を浮かべるアイドルの前を、行列をなしたファンが通過していく光景は、まるで上野動物園のパンダの展示スペースのごとく。
はたから見ると異様に感じるかもしれないが、それでもファンにとっては至近距離で憧れのアイドルと対面できる貴重な機会だ。
しかし、ファンは若い世代の女性が中心。経済的に限度がある人がほとんどなので、バイトを掛け持ちする人、さらには夜職をしてまで資金を調達する女性が増えているという。
「チェキ撮影会」や「サイン会」に参加すると、同じ人が何度も並んでいる様子が見られる。これを「ループ」と呼ぶのだが、ただ大好きなアイドルとの交流を楽しみたいという人から、中には「私の推しは行列が途切れないほど人気がある」と、周囲にアピールするために複数回並ぶ人もいる。
このように健気なサポートで成り立つアイドルとファンの関係だが、ファン心理とは複雑なもので、「推しに人気が出るのは嬉しいけれど、手が届かなくなるようなスターになると、接触できる機会が減ってしまって寂しい」と途端に熱が冷めてしまうという人も少なくない。
そういう人たちはまだ世間に見つかっていない金の卵を発掘し、人気者に押し上げるべく、そして、接触の時間を楽しむべく、また新たな“推し活”へ移行。彼女たちはこれまでの経験と知識をもっているので、新規ファンに現場での立ち振る舞い方など「古(いにしえ)のルール」を伝授していく。
もっとも新規ファンにとっては、これをありがたいと受け取る人もいれば、「小姑の戯言」と受け取る人もいるらしい。
●桁枚を買ってやっと当選という人も多い中、なんと一回で当選したという幸運過ぎるファンもいた。
「同行の友人に連れられ、会場ブースでCDを5枚だけ購入。公演帰宅後に指定のサイトへシリアルナンバーを入力し、結果が出る抽選方法でした。
なんと1枚目で推しメンバーのサイン会が当選! 3桁、4桁レベル枚数のCDを購入しないと当選しないのでは? と噂では聞いていたので、本当に幸運でした」(女性ファンAさん)
ただ、イベントに参加するためのボーダー(CDを何枚購入すれば当選するかなど)を教えることだけは暗黙の了解でNGとされている。
さらに、ここへきて、日本で長きにわたって男性アイドル界を牛耳ってきたジャニーズ事務所が、創業者である故・ジャニー喜多川氏の性加害問題により崩壊。その他、オーディション番組出身のボーイズグループが雨後の筍のごとく誕生し、幾度目かの男性アイドル戦国時代に突入したことから、マーケットはさらに過熱することが予想される。
この戦国の世をはたしてどのグループが制するのか、そして、大量購入されたCDの行方は…。そんな世情を書き連ねながら、筆者宅にも同じCDが多数眠っていることを思い出してしまった。同じようにすべてのヲタ宅に眠っているCDたちが、せめてCDとしての役割をはたし、運命を全うすることができますように。
