深いグレーの礼服をお召しになった雅子さまは、天皇陛下の左後方を寄り添うように歩まれ、「全国戦没者之霊」と記された白木の標柱の前へと進まれた――。
終戦75年となる今年、終戦記念日の8月15日に「全国戦没者追悼式」が日本武道館で催された。しかし、会場は例年とは違う緊張感に包まれていた。
「コロナ禍のなかでの追悼式となりますので、感染予防のために厳戒態勢が敷かれました。参列者は例年の1割以下となる550人程度に。入場時に体温測定が行われ、全員がマスクを着用。両陛下も、最後までマスクを外されることはありませんでした」(皇室担当記者)
壇上の両陛下は正午の時報とともに1分間の黙祷。続いて陛下がお言葉を述べられた。そのなかにも、新型コロナに言及する異例の一節があった。
《私たちは今、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、新たな苦難に直面していますが、私たち皆が手を共に携えて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います》
陛下と雅子さまがご公務でお出ましになったのは、今年2月14日の「世界らん展」以来。実に半年ぶりのことであった。
「感染の懸念が消えないなかでも両陛下が式典への臨席を決断されたのは、先の大戦への“深い反省”と、唯一の被爆国としてかけがえのない“平和”を願う強いお気持ちゆえでしょう」(前出・皇室担当記者)
終戦記念日に先立つ8月11日、両陛下は赤坂御所に国連本部事務次長の中満泉さんを招き、核軍縮などについて説明を受けられた。中満さんは日本人女性として初めて国連事務次長に就任し、軍縮部門のトップを務めている。
両陛下とのご面会前には広島と長崎の平和式典にも参列している中満さんが、本誌の取材に答えてくれた。
「まず私から両陛下に国際安全保障の現在の環境や、日に日に難しくなる軍縮のさまざまな課題についてお話をいたしました。今回訪問した広島・長崎では、オンライン技術を使って被爆地の情報を世界に発信できるシステムを開発している若者たちと出会い、非常に勇気づけられたという報告もさせていただきました」
中満さんの報告に両陛下は強い共感を示され「すばらしいことですね。政府間の交渉も重要ですが教育も重要です。若者が被爆地の話を継承するのも大事なことです」と述べられたという。