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「安倍内閣が積み残した課題は、北方領土問題や北朝鮮問題、日中関係や日韓関係の修復など多岐にわたり、菅内閣がそれらを解決するのは非常に困難です。そうした状況のなかで、菅内閣が解決しえるもっとも具体的で差し迫った課題があるとすれば、女性天皇・女系天皇の容認でしょう」

 

そう語るのは、静岡福祉大学名誉教授で歴史学者の小田部雄次さん。

 

9月16日、認証式で天皇陛下から任命を受けて菅義偉氏が総理大臣に就任した。皇室が抱える問題について、首相としてどのように向き合っていくことになるのだろうか? 皇室の歴史や皇位継承問題に詳しい小田部さんに聞いた。

 

――7年9カ月もの間、安倍政権で官房長官を務めていた菅首相ですが、皇位継承問題についてはどのように関わってきたといえるでしょうか?

 

’17年6月に成立した「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の付帯決議では、女性天皇・女系天皇をふくむ「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」や、女性皇族が結婚後も皇室にとどまれる「女性宮家」の創設などについての検討を行い、その結果を速やかに国会に報告することを政府に求めていました。当時の官房長官であった菅氏は、新天皇の即位礼後となる’19年秋以降に検討を開始すると述べていました。

 

ところが即位礼が終わった’19年11月、政府は検討開始の時期を「立皇嗣の礼」の後へと先送りすることに。しかもコロナ禍で’20年4月に予定されていた立皇嗣の礼が延期になると、そのまま皇位継承の議論まで先延ばしにして、今日に至っているのです。

 

――実は’05年の衆院選で新聞社のアンケートに答えた際、菅氏は女性天皇に賛成しています。現在、菅首相は女性天皇、さらには母方にのみ天皇の血筋を引く女系天皇についてはどのような考えを持っていると思われますか?

 

菅氏はもともと男系論者ではないのでしょう。しかし「桜を見る会」などさまざまな問題により安倍内閣への批判が強まるなか、菅氏は安倍首相擁護の動きを強め、同時に安倍内閣の基盤でもある男系論者たちへの迎合も進めていきました。それは内閣を守ろうとする官房長官としての自然の論理でもあったでしょうし、次期政権への委譲をそれとなく期待しての反応でもあったと思われます。

 

いずれにせよ菅氏は、安倍内閣とそれを支えている男系論者たちと一線を画すことができなくなっていったようです。菅氏が安倍首相退陣後も男系論を堅持するのか、女系天皇をふくむ安定的な皇位継承のための議論に踏み込むのか、その真価が問われると思われます。

 

――自民党の中にも、女性天皇や女系天皇を容認する意見は少なくないのでしょうか。

 

昨年11月、自民党の甘利明税制調査会長がフジテレビの番組で「最終的な選択肢としては女系も容認すべきだ」と発言しています。甘利氏はその後、「積極的容認でない」と釈明しましたが、「男系存続の危機に陥ったときに備えていろいろ議論しておくべきだ、との意味だ」と説明しています。皇位継承の危機に備えて、女系天皇の議論も視野に入れておく必要性を認めていたのです。

 

また昨年12月、自民党の石破茂元幹事長は、CS-TBSの番組で「女系だからダメだという議論には賛同していない」と述べました。番組収録後、記者団に「お生まれになったときから、天皇として国民統合としての務めを果たすため、常人の及ばざる努力をしてこられた方がふさわしい」と語っています。

 

――菅政権や今後の自民党政権が、女性天皇・女系天皇を容認する可能性はあるのでしょうか?

 

’20年4月に共同通信が発表した世論調査では、85%が女性天皇に賛成、79%が女系天皇に賛成しています。多くの国民が女性天皇だけでなく女系天皇にも賛成なのです。そうした国民世論とかけはなれた内閣は、いつかは国民に見放されることになるでしょう。この政治力学を菅内閣がどこまで重視するかで、今後の議論の流れも決まるだろうと思います。

 

このまま女性皇族がいなくなるまで男系継承のシステムを続ければ、近い将来、正当な皇位継承者がいなくなる可能性は小さくありません。もし皇室が存続出来なくなった場合、その責任を現在の政権を担う自民党が負うことになるでしょう。

 

皇室の存続を真剣に考えるならば、皇室典範改正を数年のうちに実現させなければならず、菅内閣の責任も重いといえます。安定した皇位継承のために、もし菅内閣が女系天皇容認の法改正を実現させれば、それだけで大きなレガシーとなります。しかし、改革を放置するのであれば、菅内閣の負のレガシーとして、永遠に残ることになるでしょう。

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