「愛子さまをはじめ内親王のお子さまを素直に次の天皇として受け入れることもあるのではないか」
“ポスト安倍”レースが取り沙汰されていたさなかの8月23日、河野太郎防衛大臣(当時)が“女系天皇容認論”に言及し、大きな話題を呼んだ。
総裁選には不出馬となったものの、河野氏は行政改革担当大臣に任命され、菅内閣の中核メンバーとなっている。河野氏の発言は、今後の皇位継承に関する議論にどのような影響を与えるのだろうか? 静岡福祉大学名誉教授で歴史学者の小田部雄次さんに聞いた。
――総裁選の直前、河野太郎大臣が母方にのみ天皇の血筋を引く「女系天皇」の容認を提言して、大きな話題を呼びました。
8月23日、河野氏は自身のYouTube番組で、安定的な皇位継承に向けて女系天皇も検討すべきとの考えを示しました。「男系が続くなら男系が良い」としつつも、男系を維持するための現実的な、国民に広く受け入れられるような方法がもはや限られているため、「男の子がいなくなったときには女性の皇室のお子さまを天皇にするのが一つある」と提言したのです。河野氏はその後の記者会見でも同趣旨を述べ、自身の公式サイトでも「男系、女系にかかわらず、皇室の維持を図るべき」と記しています。
――河野氏は、男系維持に固執することの危険性についても言及していました。
河野氏は「我が国の皇室は、かつてない存続の危機に瀕している」と述べ、将来、悠仁親王に男子が生まれなければ、男系の皇統は絶えることになると警鐘を鳴らしました。このままでは男系の維持は確率の問題になってしまい、男系の維持は容易ではないと述べています。
一部の保守派は、男系男子の流れを持つ旧皇族男子を皇室に婿入りさせることを提言しています。河野氏はこの案についても「内親王殿下、女王殿下にもご結婚の自由があり、ご結婚を強制することはできない」と’16年10月のブログで言及しているように、以前から実現性に疑問を投げかけています。
また、旧皇族男子のいる旧宮家は600年近く現皇室との間に男系のつながりはなく、その男系が皇室を継ぐことが国民的に受け入れられるだろうかと懸念しています。運よく、この方法で宮家が一つ、二つ増やせたとしても、継続的に安定的継承ができるわけではなく、男子が生まれる確率が多少高まるにすぎないとも指摘したのです。
――保守派の一部には、側室制度の復活を求める声もありますが、河野氏はこれについても否定的な見解を示しています。
側室復活案には、国の象徴であり、国民に親しまれ、敬われる皇室ということを考えれば、国際的にみても現実的な選択肢とはなりえないと、否定しました。人工授精などでの産み分けについても、卵子の提供や人工懐胎をどうするかなど問題は多い。そのような皇室に、皇后にふさわしい女性が嫁いでこられるかと疑問を呈したのです。
「男系天皇を維持すべしという議論は理解できるにしても、それを具体化するための現実的な、国民に広く受け入れられるような方法はどうするのだろうか」と、河野氏は自身のブログに綴っています。各方面の多様な意見を総合して判断した、河野氏なりの結論といえます。
――河野氏の発言に対し、自民党内の一部からは反発の声が上がりました。自民党政権が、女性天皇や女系天皇の容認を実現することはありうるのでしょうか。
そもそも女系天皇を容認するという案は、小泉純一郎内閣の時代(’05年)に起草され、安定した皇位継承のために自民党が推し進めようとした政策でした。しかし男系に固執する安倍晋三氏に政権が移り、その後の再登板で安倍内閣が長期政権となるなかで、男系の維持が自民党そのものの方針のように進められてきたのです。しかし実際には、将来の皇位継承の危機を感じて、女系天皇案を支持する自民党議員や自民党員も少なくはないのです。
河野氏なり、石破氏なり、あるいは別の政党の方なりが、男系論のいきづまりと将来の危うさ、女性天皇と女系天皇の必要性を力強く説明していくことが大事かと思います。自民党内にはまだ根強く男系論者がおり、その人たちの反対を抑えられるかどうかがポイントでしょう。
’20年4月に共同通信が発表した世論調査では、85%が女性天皇に賛成、79%が女系天皇に賛成しています。こうした世論が政治に反映される方向に動けば、女性天皇・女系天皇の容認の方向に進むことはありうると思います。