今年もまた日本に慰霊の夏が訪れた――。上皇陛下はかつて“日本人として忘れてはならない4つの日”を示された。すなわち沖縄慰霊の日、広島原爆の日、長崎原爆の日、そして8月15日の終戦記念日だ。
「天皇ご一家は、この4つの日には黙祷をささげられます。特に8月15日は毎年、日本武道館で『全国戦没者追悼式』が催され、天皇皇后両陛下が出席されています。しかし今年は新型コロナウイルスの感染拡大が進み、医療崩壊の危機に直面しているため、事前に参列者を約200人に絞ることが決められていました。参列者は過去最少となりましたが、天皇陛下も雅子さまとごいっしょに、この日に備えて、“お言葉”の推敲を重ねられていたのです」(皇室担当記者)
戦没者追悼式での天皇陛下のお言葉は400文字ほどであり、決して長いものではない。しかし陛下は昨年、上皇陛下の平和を願うメッセージを踏襲するいっぽうで、お言葉の4分の1を割き、公の場で初めてコロナ禍に言及されたのだ。
《私たちは今、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、新たな苦難に直面していますが、私たち皆が手を共に携えて、この困難な状況を乗り越え、今後とも、人々の幸せと平和を希求し続けていくことを心から願います》
実はこの決断にいたるまで、天皇陛下は熟考を重ねたうえ、周囲の人々に意見を求められた。宮内庁関係者はこう語る。
「全国戦没者追悼式でのお言葉に、災害や社会情勢が盛り込まれた前例はありませんでした。そのため宮内庁上層部のなかでも、『戦没者の追悼に専念すべきではないでしょうか』という反対意見があったのです。また、その半年前の’20年2月には天皇誕生日の一般参賀の中止が発表されました。当時はまだ感染者は多数ではありませんでしたが、天皇陛下のご意向を踏まえ、宮内庁が大規模集会の自粛を世間に先駆けて決定したわけです。
この発表は東京五輪・パラリンピック開催を目指していた政府内にも波紋を呼び、官邸から宮内庁への叱責もあったと聞いています。そういった背景もあり、従来のお言葉を変更し、天皇陛下がコロナ禍に言及されることが、禁止されている“政治的行為”として批判されるのではないかという強い懸念があったのです」