■「戦没者追悼式でコロナ禍言及」に波紋が
その懸念は現実のものとなった。政府関係者や神社関係者の一部から、“戦没者の御霊を追悼する場であるにもかかわらず、慰霊とは直接関係のない新型コロナについて言及されたのはいかがなものか”という声が上がったのだ。ある神社関係者は本誌の取材にこう語った。
「天皇陛下があえてコロナ禍についてお話しになったのは、国民のことをお考えになったゆえだということは理解しています。しかしコロナ禍へのお気持ちを《全国戦没者之霊》と記された白木の標柱に向かい、述べられる必要があったとは思えないのです。戦没者の御霊ではなく、あくまでも国民に向かってお話しになるべきテーマだと考えています」
もちろん多くの国民と同じように、陛下と雅子さまのご決断を受け入れる意見もある。皇室史に詳しい小田部雄次・静岡福祉大学名誉教授はこう語った。
「古来、国民の生活の安寧を願い、そして祈るのは、天皇家の伝統です。その活動のなかには、疫病平癒のための神事、さらに施薬院の創設といった医療への協力もあったのです。確かに象徴天皇は政治に関わらない、政治的な発言をしないということが原則になっています。しかし何が“政治的”であるかに関しての判断は難しいでしょう。私は陛下がコロナ禍に言及されたことで、『国民に心を寄せる』天皇としての在り方をしっかりとお示しになったと考えています」
昨年以来、天皇陛下は2月のお誕生日会見や6月の日本学士院授賞式などで、コロナ禍に対し、人々が力を合わせることで立ち向かっていくべきと語り続けられてきた。しかし今年の戦没者追悼式でのメッセージについては深く悩まれていたという。
「昨年のお言葉に対し、陛下のご想像以上に批判の声が多く、逡巡されたようです。また6月の西村泰彦宮内庁長官の“拝察発言”は海外でも報じられました。政府の感染対策には懸念を抱かれているでしょうが、海外での『東京五輪は天皇の不信任決議を受けた』といった、皇室と政府が対立しているかのような報道は、陛下のご本意ではなかったと思われます」(前出・宮内庁関係者)