12月23日、上皇さまが89歳の誕生日を迎えられた。誕生日にあたっては、上皇職からご近況をまとめた文書が発表され、2022年4月、旧赤坂御所である仙洞御所への生活を始められ、ひきつづき穏やかに暮らされていることがつづられていた。
「上皇ご夫妻は仙洞御所で規則正しく過ごされています。起床後、美智子さまと行われるご散策や、本の音読という習慣は欠かさず続けられているとのことです。音読については、30年来続いているご夫妻の習慣で、これまで寺田寅彦の『柿の種』やモンテーニュの『随想録』、パスカルの『パンセ』などをお読みになっていたことは知られていました。
美智子さまの88歳のお誕生日の文書には、上皇さまが学習院初等科で学ばれていた時代の国語教科書を読まれていることが記されていて、注目が集まりました。今回の文書では、ご夫妻がともに小学校5年生時に学ばれた国語の教科書をお読みになっていることが明かされました」(皇室担当記者)
2020年のお誕生日に上皇職が公表した文書には、「何度か繰り返されるご質問」「勘違いや戸惑い」といった認知症が疑われる症状が上皇陛下に見られるとして、波紋が広がったことがある。上皇ご夫妻が「小学校国語の教科書」を音読されるようになった背景について、宮内庁関係者はこう話す。
「美智子さまが侍医に相談され、認知機能の低下を緩和、あるいは少しでも回復することにつなげるため、日常生活の中で身近にできることとして取り組まれていると聞いております。
上皇ご夫妻はご在位中に、高齢者医療を専門とする病院や施設などをたびたび視察されていました。こうした現役時代のご視察で得た経験や知識を、美智子さまは上皇陛下を側で支えられるうえで役立てていらっしゃるのです」
小学校時代の教科書を音読する効果については、専門医も太鼓判を押している。認知症予防を長年研究し、脳内科医で加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳さんは、こう解説する。
「思い出すという行為は、脳の海馬という部分が関わっていて、ここを使うことで、認知機能の低下予防、脳の活性化につながります。小学校の教科書を音読することは、新しい短期記憶だけではなく、昔の長期記憶の両方を循環させることができます。記憶を呼び起こす目的であれば、難しい長文よりも、印象深く記憶しているひらがなの多い短文などをじっくり読むほうが、より望ましいでしょう。
そもそも音読は、認知症の方だけではなく、子どもや高齢者にとって脳の認知機能に働きかける作用があるとされています。また、口の周りの筋肉を動かすために嚥下性肺炎などの予防にもつながり、声によって聴覚も刺激されるので、聴覚機能の維持にも役立ちます」
今回、上皇職が公表した文書の中では、さらなる“新習慣”が明かされた。
「上皇さまと美智子さまはご夕食後に、初めての海外訪問となった1953年の訪英をはじめとした国内外の訪問について、若い侍従や職員を招いてお話しになる時間が設けられ、習慣とされているそうです」(前出・皇室担当記者)
複数人に対して、昔の思い出しながら語ることにはどのような効果があるのか。前出の加藤さんは、こう話す。
「会話や回想を行う席に、複数人が対面することで、それぞれの対面者との社会的な関係や思い出を無意識に呼び起こすことになります。また、視点が異なる人との会話によって、自分だけでは思い出しにくかった記憶を呼び起こすことも期待できます。
人と対面することは、記憶を引き起こす効果が大きいとされています。いわば“脳の呼び水”となって、当時の出来事だけではなく思考や感情も呼び起こされるのです。さまざまな調査で、昔のことを思い出した後に、認知力や記憶力が良くなったというテスト結果もあるほどです」
美智子さまと支え合われながら、これからも上皇さまは国民の安寧を祈り、穏やかに過ごされるのだろう――。