(写真・神奈川新聞社)
横浜市神奈川区の大口病院で入院患者2人が中毒死した点滴連続殺人事件で、神奈川署特別捜査本部は、医療や院内事情に詳しい人物が連休中を狙って点滴に消毒液を混入させたとの見方を強めている。事件があった4階では不可解なトラブルが相次いでいたが、点滴は無施錠の場所に保管され、院内には防犯カメラもなかった。悪意のある人物の行為を防ぐ手だてはあるのか-。医療現場は、危機管理を巡る想定外の難題に直面している。
特捜本部や病院によると、病院は5階建てで、事件発覚時は約50人が入院していた。夜間は警備員1人が常駐し、中毒死した男性が入院していた4階病棟は看護師2人が担当。ナースステーションが無人になる時間帯もあったが、病棟に防犯カメラはなく、1階玄関付近のカメラも録画機能のない「ダミー」だった。
点滴は4階の入院患者が3連休中に使用する分が一括搬入され、ステーションの机上や洗面台など誰でも手に取れる状態で置かれていた。同フロアでは4月以降、ナース服の切り裂きや飲み物への異物混入といったトラブルが相次いだが、「院内で処理すべき問題」と判断し、警察には相談していなかった。
院長は病院の危機管理について、「私としては必要可能な限りの予防策は取っていた」と説明する。ただ、異物混入は「内部の可能性も否定できない」との認識を示し、不審者のチェックには限界があることをにじませた。
医療現場では、横浜市立大病院の手術患者取り違え事件(1999年)など相次いで明らかになった医療過誤を受け、ヒヤリ・ハット事例を共有するなど再発防止策を講じてきた。しかし、薬品の誤投与など医療ミスへの対策は進めているものの、「故意や悪意のある行為は想定しておらず、鍵を掛ければ防げるという単純な話ではない」(医療関係者)のが実情だ。
医療現場の安全管理の在り方が、改めて問われた事件。病院は事件発覚後、病棟に複数台の防犯カメラを設置した。横浜市は、近く病院への臨時立ち入り検査を実施し、医師や看護師らから事情を聴くなどして安全管理体制を確認する方針を明らかにした。