(写真・神奈川新聞社)
写真や映像などの多様なメディアを用いた幅広い表現で注目を集める気鋭の現代美術家、川久保ジョイ(37)。個人的な体験を歴史上の出来事に結びつけたインスタレーションを紹介する個展が、横浜市中区の高架下スタジオSite-Aギャラリーで開催中だ。「細分化が進んだ人間の営みの再統合のきっかけとなる活動を」と川久保は未来を見据えている。
今回の個展「200万年の孤独、さくらと50万光年あまり」は、ガルシア・マルケスがある一族の興亡を描いた小説「百年の孤独」をもじり、自分自身の祖父や父、息子とのかかわりを通じて、人類が二足歩行を始めてから200万年の歴史を意識している。
川久保は「われわれ個人レベルの視点と、その周りを取り巻く社会情勢や世界の歴史、そして最終的な遠景として存在している人類の歴史を、普段あまり意識することのない接続詞でつなげたいと思った」と同展での狙いを明かした。
■家族から世界へ
会場の中心には地球を模した鉄製のオブジェ。鉄格子のおりを球体にしたようで、靴を脱いで中に入ることができる。アクリルミラーの床に「TWO MILLION YEARS」の電飾が天井から映り込む。
その地球を取り巻くように、家族についてのエピソードが並ぶ。終戦時に自決できなかった祖父の体験、スペインで暮らす画家の父によるエル・グレコの模写、ナチスに誘拐されたドイツ人外交官の旧邸宅を撮影した自身の写真作品、幼い息子と集めた小石や貝殻を置いたチェス盤-。
父が庭を管理しているという、ドイツ人外交官の旧邸宅で見つけた古い雑誌には、1932年11月のドイツ国会選挙でナチ党が大幅に支持を失ったとの記事があった。支持率33.09%を「これは、現在の日本における自民党の支持率よりも低い」と川久保。だが翌33年にはヒトラー内閣が成立しており、こうした記事を作品として並べることで今の日本が当時と似た状況にあるのではないか、と暗示している。
■森全体を見渡す
筑波大卒業後、英国の著名な音楽カメラマンの助手になる費用を稼ごうと金融トレーダーに。トレーダーとして約3年間働くうちに、商業写真より現代美術の中での写真を志すように変わっていった。現在はロンドンに在住し、国内外で活発に活動中だ。
今、取り組んでいるのが「細分化や専門化が進んでしまった人間の営みの再統合」だ。「現在では木の一本一本をよく知るようになっても、森全体を見渡すことが難しくなっている」
細分化と専門化によって科学や美術の進歩はあったが、失われてしまった総合的なビジョンがある。そのビジョンを取り戻せるように、多様な分野への興味をまとまった理解や営みにする活動を目指す。
「大風呂敷を広げた少し夢想的なことかもしれないが、一歩ずつ歩んでいけたら」と話した。
※23日まで。月曜休館。入場無料。午前11時~午後7時。問い合わせは、黄金町エリアマネジメントセンター・電話045(261)5467。