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(写真・神奈川新聞社)

 

藤沢市在住の絵本作家かこさとし(加古里子)さん(91)の作品を集めた展示会が14日、藤沢市藤沢の市民ギャラリーで始まる。戦後、貧困地区で出会った子どもたちをモデルにした代表作シリーズ「だるまちゃん」の刊行から半世紀。かこさんは「子どもは希望。自分の頭で考え、未来を切り開いていってほしい」と思いを語った。

 

1959年の絵本作家デビューから、間もなく60年。世に送り出した著作は600冊を超える。

 

「大人の洗礼を受けていない子どもさんたちのために、少しでもお役に立てないだろうか。せめて愚かで間違った判断をした自分のような人生を送ることのないよう伝えたい、と思って何冊か出してきました」

 

穏やかな口調で、自らの原点を振り返る。

 

19歳で敗戦を迎えた。かつて航空士官に憧れた軍国少年は、戦後、大人たちに深く失望したという。

 

「戦意高揚を謳(うた)ったかと思えば、反省のひと言もなく、今度は民主主義の時代が来たとしゃあしゃあと喜んでいる。なんてだらしなく、浅ましく恥ずかしい人たちだろうと」。3年前に出版された自叙伝「未来のだるまちゃんへ」(文芸春秋)の中で、当時の胸中をこう明かす。

 

■希望は子どもたちだった。

 

東京大学工学部出身の研究者として、現在の川崎市幸区にある民間企業に勤める傍ら、貧困地区の子どもたちを支援する「セツルメント活動」に参加した。

 

「子どもは毎日、新しいものを受け付けて、乗り越えるために想像力をうんと働かせる」。活動を通じた交流が生きる活力となり、後の創作活動の土台となった。

 

作品展では絵本原画や絵画作品など約40点を紹介。「だるまちゃんとてんぐちゃん」の下絵や、セツルメント活動時に描いた絵画「おもちゃの国に朝が来た」も展示する。

 

来年1月には、だるまちゃんシリーズの新作を3冊同時に発刊する。舞台となったのは、基地問題で翻弄(ほんろう)される沖縄県や、東京電力福島第1原発事故で被災した福島県だ。

 

かこさんは未来を生きる子どもたちへのメッセージを口にした。

 

「『これからの世の中はこういう形がいいんだ』と、有能な大人たちが考えた道があるのかもしれませんが、そういう受け身ばっかりでは、次への時代を担っていく力にならないのではないか。子どもさんたちには、自分のちゃんとした考えを貫ける、そんな賢い子になってほしい」

 

作品展は12月10日まで。問い合わせは、藤沢市アートスペース・電話0466(30)1816。

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