(写真 神奈川新聞)
丘陵地に細い路地や階段が入り組む横須賀市汐入町の「谷戸(やと)」を拠点に、多摩美術大環境デザイン学科4年の矢野香澄さん(22)=同市=が地域の課題解決を目指して活動している。平地が少ない横須賀ならではの地形のため空き家の増加が深刻だが、古民家のリノベーション(大規模改修)のほか、卒業制作では“理想の谷戸”をテーマに大型模型も完成させた。「いつか谷戸の一番高いところにみんなが集まり、横須賀の将来について話し合いたい」と夢は膨らむ。
「実際に人が入り、『できたね』と言われ、初めて『完成したんだ』と実感した。うれしい」
今月25日。京急線汐入駅から15分歩いた米軍基地を望む高台の古民家で、矢野さんが笑顔を見せた。
この日開かれたのは、リノベーションの完成を祝うお披露目式。元はアプリ開発会社「タイムカプセル」(相澤謙一郎社長)がオフィスとして使っていた築50年ほどの2階建てで、昨年夏から仲間の美大生らとともに1階部分を改修した。「すべて手探りだった」と笑うが、フローリングをすべて張り替え、後輩のガラス工芸作品を展示するなどおしゃれな空間に仕上がった。相澤社長も「若者たちの才能があふれる空間になった」と喜び、若者が集まるスペースにしたいと考えているという。
矢野さんは横須賀で生まれ、大学では建築やランドスケープ(景観)の設計を学んだ。谷戸に関心を持ったのは大学3年の時。学生団体「スカブル」に入り、学生らが横須賀の抱える課題解決に向けてアイデアを競う「横須賀学生まちづくりコンペ」で優勝した。空き家を利用した「二拠点生活」を提案し、「この時谷戸を動き回ったのが、本格的に空き家について触れた最初」と振り返る。
「まちの設計をしたい」と段ボールや発泡スチロールなどで作った模型は縦1・9メートル、横1・2メートル、高さ60センチほど。「谷戸は自然豊かと言われるが、よく見るとツタが絡まっていたり木が密集していたり」。そうした木を伐採し、子どもたちが遊ぶ場所には虫や鳥が来るような木を新しく植えた。カフェや畑、ウッドデッキなども作り、「地域一帯を考えた時に『これくらい魅力的になるんだよ』という思いを込めた」と語る。
卒業後、いったんは就職しないが、谷戸には関わっていくつもりだ。改修した民家については「工具も一通りそろっているので、谷戸でこれから何か作っていくための工房にしたい」と矢野さん。「谷戸は可能性を秘めている。若い人にとって階段が苦痛じゃなければ容易に住める。そういう場所を面白くしていけばニッチな層が集まるし、求めている人も多いと思う」