杏樹ちゃんを抱える父親の祐樹さん(前列右から3人目)と、長女思月(しづき)さんと笑みを見せる母親の樹里さん、杏樹ちゃんの治療に当たった医療スタッフら=16日、南風原町の南部医療センター・こども医療センター
世界でも症例が少ない体重1500グラム以下での人工心肺の装着を受け、救命することができた子が16日、沖縄県の南部医療センター・こども医療センターを退院した。退院したのは平良杏樹(あんじゅ)ちゃんで、約11カ月の入院生活の間に2度の大きな手術を乗り切り、生まれつき患った重い心臓の病を克服した。両親は1歳の誕生日を前に退院した杏樹ちゃんをいとおしそうに抱え、医師や看護スタッフらはその姿を特別な思いを持って見送った。
杏樹ちゃんは2016年9月7日、心臓の大動脈の一部が狭くなり、血液の循環がうまくいかなくなる「大動脈縮窄症候群」を患って生まれた。生まれて9日目に肺の血流を調整する手術を受けたが、その後に心不全が悪化した。心臓が一時止まり、1時間以上の心臓マッサージを受けた後、体重1400グラムの体に人工心肺装置を付けた。医師らによると、1500グラム以下の子に人工心肺を装着する症例は世界でもほとんどなく「生存困難」とも言われているという。
装着は成功し、1週間後に装置は外れたものの、当初は病気を根治する手術までたどり着くことは困難視されていた。
医師や看護スタッフ、臨床工学技士に加え、家族のケアをする心理士も杏樹ちゃんの治療に全力を注いだ。
だが、生まれて4カ月がたっても、杏樹ちゃんはわずか1800グラムの体重しかなく、心臓の弁の逆流がひどくなっていった。
そのため、医師らは今年1月17日、杏樹ちゃんの病気を根治する手術を実施。人工心肺を再度着けて、大動脈の狭い部分を切除し、つなぎ直す手術、生まれつき開いていた心臓の穴をふさぐ手術、弁の逆流を止める手術を同時に行った。数時間におよぶ手術は成功し、7月3日に集中治療室から一般病棟に移り、8月16日に退院した。
小児集中治療科の藤原直樹医師は「数多くの困難があったが、この子(杏樹ちゃん)の生命力もあり、家族を含めた周囲のサポートが大きかった。チームの総合力で救命することができたと思う」と杏樹ちゃんの治療を振り返った。
杏樹ちゃんの母・樹里さん(38)=糸満市=は「最初の手術を受けたときは半ばあきらめの気持ちもあったが、病院の先生や看護師に励まされて前向きになれた。通院もあって慣れるまでは大変かもしれないが、待ちに待っていた退院なのでとてもうれしい」と語った。