「ショーということもあって、羽生くんもとてものびのびした様子でした。4回転トウループを成功させたときにはその日いちばんの歓声が上がりました。最後には『ありがとう!』と観客席に叫んで去っていました」(観覧した女性客)
華麗な演技で観客を沸かせたのは羽生結弦(24)。羽生は5月24日に千葉県・幕張で行われたアイスショー「ファンタジー・オン・アイス2019」に出演した。紀平梨花(16)やハビエル・フェルナンデス(28)といった国内外の一流スケーターが集う、大人気の公演だ。3月の世界選手権以来、2ヵ月ぶりに演技を披露した羽生。“王”の帰還にファンの盛り上がりも最高潮に。しかし、開催前には一部で出演を危ぶむ声がささやかれていたという。
「羽生選手は昨年11月のGPシリーズ・ロシア杯で右足を負傷し、世界選手権後に『2~3カ月の加療が必要』と発表されていました。これまでほぼ毎年ショーに出演していましたが、今回はギリギリまで出演が発表されませんでした。ファンの間では『ケガが深刻なのでは……』と心配する声が多かったんです」(前出・女性客)
それでも出演を決意した羽生。そこには“譲れない理由”があった。
「今回のアイスショーには、羽生選手が幼少期から憧れ続けたロシアの“皇帝”エフゲニー・プルシェンコ元選手(36)も出演していました。共演できたのがよっぽど嬉しかったのか、今回も羽生選手はプルシェンコ選手と手をつないでぴょんぴょんと跳ねながら楽屋口に戻っていましたよ(笑)。さらに羽生選手が昨シーズンのフリープログラムに選んだ曲は『Origin』。プルシェンコさんがかつて使用した曲にアレンジを加えたもの。昨年のアイスショーで共演した際、直談判して使用する許可をもらった思い入れの強い曲です。それだけに、今回は『1年ぶりに成長した自分の姿を見せて恩返しがしたい!』という思いがあったのでしょう」(スケート連盟関係者)
羽生は昨シーズン開幕前のインタビューで、曲目にかける意気込みをこう語っていた。
「オリジンには『起源』『始まり』という意味を持たせたかった。プルシェンコさんのことはずっとこういうふうになりたいと思いながら見ていて。小さいころからやりたいなと思っていました」
“原点”に立ち返って挑んだ世界選手権。しかし、奮闘するものの2位に終わっていた。試合後に「負けは死も同然。本当に勝ちたいです。追随されないくらい強くなりたい」と来シーズンでの“逆襲”を誓った羽生。さらに今年の本誌4月9日号では“チーム羽生”が2022年の北京五輪での3連覇に向けて準備を始めていることを報じていた。
しかし、立ちはだかるのは大差で羽生を破ったネイサン・チェン選手(20)。さらなる飛躍を目指すネイサンは、来シーズンでは4回転ジャンプの種類を増やす練習に取り組んでいるという。また宇野昌磨(21)も5回転ジャンプへの挑戦を宣言。これまで以上の厳しい闘いが待ち構えている。そんな羽生を救うべく立ち上がったのが“憧れの師”プルシェンコだった。
これまでも「ロシアに帰るより頻繁に日本に来ているかも。それはユヅルがいるから」と語るなど、羽生への深い愛情を見せてきたプルシェンコ。彼は世界選手権直後に自身のSNSでも、羽生にこうエールを送っていた。
《私の偉大な友人ユヅル、君は困難と怪我のすべてを乗り越え、日本での世界選手権で素晴らしい演技をした。君がどんなに大変だったか、私は分かる。私の心の中では、君が一番だ》
さらに、プルシェンコは『Number』18年11月22日号でこうも語っていた。
《間違いなく彼こそが本物のフィギュアスケーターです。しかし、ひとつだけ弱点がある。今は言いません。シーズンが終わったときに彼に直接伝えようと思っています》
“皇帝”だけが知る羽生の弱点。今回のアイスショーで1年ぶりに共演した2人は、王座奪還に向けて秘密を共有しているという。
「プルシェンコさんはこれまで羽生選手がピンチになると、必ず手を差し伸べています。平昌五輪の前には、ケガに悩む羽生選手に『焦ってはいけない』とメンタルケアの方法を指南していました。アイスショーでも羽生選手と一緒になるたびに、時間を見つけてはアドバイスをしているといいます。勝利を期待される重圧やケガと闘ってきたプルシェンコさんだからこそ、羽生選手の大変さも人一倍わかるのでしょう。ふだんは頑固な羽生選手ですが、熱心に話を聞いているそうです」(前出・スケート連盟関係者)
“最強の皇帝”との再会を受け、羽生は再び絶対王者への道を一歩ずつ歩んでいく――。