トロントでの公開練習を行わないと報じられたが……(写真:アフロ) 画像を見る

「シーズン開始直前の8月にメディアをカナダに呼びよせ、練習を公開する。それが毎年の恒例行事でした。例年なら同時に新プログラムの発表も行われていたんです。それが今年は中止と報じられたことで、周囲は騒然となっています。異例の事態に『ケガをした右足の具合がまだ悪いのでは……』と心配する声も上がっています」(フィギュア関係者)

 

今シーズン初戦の舞台として、9月12日開幕のオータム・クラシックに出場することが決定した羽生結弦(24)。昨シーズン最後の試合となった世界選手権から約半年後の大会。その動向に、世界中から注目が集まっている。だがそんな彼の周囲で、ある異変が起きていた。カナダ・トロントで例年行われる公開練習を、今年は行わないと報じられたのだ。

 

羽生は昨年11月のロシア杯で右足首靱帯を損傷していた。そのケガは周囲が思う以上に深刻だった。翌年3月に行われた世界選手権では奮闘を見せたものの、ネイサン・チェン(20)に続く2位。試合後には痛み止めを使用しながらの戦いだったことも明らかとなっていた。

 

「羽生選手は輝かしい戦績を残す裏で、幾度となく足のケガに悩まされてきました。近年では、16年4月に左リスフラン関節靱帯損傷を発表。翌年11月のNHK杯では公開練習中に転倒し、右足関節靭帯を損傷しています。さらに18年11月のロシア杯でも同じく右足関節靭帯を損傷。そして世界選手権後の今年3月には右足関節靭帯損傷に加え、三角靭帯損傷と腓骨筋腱損傷も公表。2~3カ月の加療が必要と診断されました」(スポーツ紙記者)

 

6月に発売されたムック『Quadruple2019』のインタビューでも、羽生は思うようにいかない右足の回復ぶりについて明かしていた。

 

《やはり足首の状態は、そんなに劇的によくなるという感じではないですね。いろいろな施術をしてもなかなかうまくいかないところがあったので、世界選手権が終わって少し休んだあと、温存療法というか、とにかく筋肉をつけながら、リスクを最大限に回避して練習する、ということを始めました》

 

つまり、まだケガが完全には治っていない状態だということ。これまで多くの選手が悩まされてきた足のケガ。フィギュアスケート選手にとって職業病ともいえるが、羽生はそれでも前を向こうとしている。そんななかで伝えられた公開練習中止。だがこれも、決して悲観的なものではないという。

 

「むしろ彼らしい前向きな決意の表れだといえるでしょう」と語るのは、これまで羽生を10年以上取材し続けてきたスポーツジャーナリストの野口美惠さんだ。

 

「羽生くんはいま、自分の力をさらなる高みへと持って行こうとしているのだと思います。彼が現役のうちに跳びたいと宣言している4回転アクセルは、ケガが完治しないと練習すらできない非常に高度な技。いっぽう公開練習で新プログラムを披露するとなれば、ある程度滑り込む必要があります。またそのタイミングでピークを持っていけるよう、調整しなければなりません。それらは今季の優勝や4回転アクセルといった、“真の目的”の妨げになりかねないのです。だからこそあえて公開を中止し、治療に専念。そして、試合に向けて集中する。ある意味、とても賢い戦略だと思います」

 

その先に見据えるのはもちろん、ネイサンへの雪辱だ。野口さんは羽生の決意について、こう期待を寄せる。

 

「羽生くんにとって今季はケガと年齢、周囲からの大きな期待を背負うという様々な課題のあるシーズンです。ケガだからダメだと短絡的にはならず、うまく付き合っていく方法を考える。そしてシーズンオフにもアイスショーに出演し、試合さながらの情熱的な演技を見せてくれました。そうした点からも、『今年こそは絶対にネイサンに勝ってやる!』という強い気持ちがうかがえます。すべては、今季の世界選手権で勝つため。力強く前を向く彼のこれからが楽しみです」

 

9月の初戦、そしてネイサンに雪辱を果たすため。羽生はトロントの地で、静かに逆襲の牙を研いでいる――。

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