見るたびに、ため息が出そうになる羽生結弦(25)の優雅な立ち姿。だが、それは名伯楽の秘密のレッスンあってのものだった。「美姿勢をつくるエクササイズ」で、ゆづのように美しい姿勢を手に入れようーー。
「結弦がつねに心がけているのが美しい姿勢です。ふだんの姿勢の悪さは、試合でのジャンプの出来にも大きく影響します。美姿勢を保つことも、彼の戦いなんです」
そう語るのは、羽生結弦(25)が小学校2年生の時から、体のケアをしてきた元専属トレーナーの菊地晃さん(63)。2月7日、韓国・ソウルで行われる「四大陸フィギュアスケート選手権」で人類初の4回転半ジャンプに挑む羽生。なぜ姿勢がそれほどまでに大事なのか?
「結弦のジャンプがほかの選手と違うのは、回転軸がぶれずに高速で回れること。そのためには、頭のてっぺんが糸で引っぱられているように背筋が伸び、骨盤が適度に前傾している美しい姿勢を維持しなければなりません。結弦のように、長い手足を持つ選手は本来軸がぶれやすい。でも、ふだんから正しい姿勢をとることで、試合の激しい動きの中でも、ほとんど意識せずに、軸を安定させられるのです」(菊地さん・以下同)
日常からの“美姿勢”があの素晴らしい演技の秘密なのだ。“でも、私はゆづのようにアスリートでもないし、関係ないわ”と思ったそこのあなた、美姿勢は一般の人にとっても、生活を豊かにしてくれる大切なものだ。
「背筋を伸ばすだけで見た目が10歳以上若く見えます。逆に姿勢が悪い状態が続くと、全身の血流が悪化し、肩こりや腰痛、疲労などさまざまな不調を招く。美しい姿勢は、体の外も内も美しくしてくれるのです」
実際に羽生が行ってきたもののなかから、美姿勢をつくるのに役立つ運動を、“ゆづの思い出”と共に、菊地さんに教えてもらおう。
美姿勢のためには、体幹の強化が欠かせない。
■美しい姿勢を保つ「体幹アップ・スクワット」
(1)壁を背にしてまっすぐ立つ。両足は肩幅に開き、頭、腰、かかとは壁につける。
(2)息を吐きながら、壁を支えにひざが120度になるところまでゆっくり腰を下ろす。息を吸いながら元の体勢に戻す。1日10回を目安に。
■体幹をしなやかにする「自転車こぎ腹筋」
(1)あおむけになり、両手を後ろに組む。
(2)息を吐きながら、自転車をこぐように両足を交互に伸ばしながら、ゆっくりと上げる。真上にきたところで、息継ぎをして、息を吐きながらゆっくりと下げる。5秒ほどで1セット。1日3回。
「おなかの中心をコルセットのように取り囲んでいる腹横筋や、背骨を固定させる多裂筋など、体の深部にある筋肉を鍛えることで、背中が丸まるのを防げます。ジュニア時代の結弦が実践していたのが『体幹アップ・スクワット』と『自転車こぎ腹筋』のトレーニング。『きついよ!』と文句を言いながら、いつまでも続けていました」
姿勢は、疲労や長時間座っていることなどでも、すぐに乱れる。そんなときは、次の運動が効果的。
■頭を正しい位置に持っていく「姿勢矯正ストレッチ」
(1)背筋を伸ばして椅子に座る。
(2)頭を後ろに傾け、首を伸ばす。
(3)首を伸ばしたまま、頭をひっぱり上げられるようにゆっくり立ち上がる。
(4)ゆっくり首を戻す。立ったまま、ふたたび首を後ろに傾けて伸ばす。その状態で椅子に座り、首を戻す。この一連の動作を1日7回ほど行う。
「試合会場に向かうバス移動だけで、姿勢が歪むことがあります。そのままでは演技のキレがなくなり、本来のパフォーマンスを十分発揮できません。ソチ五輪の本番前、結弦に姿勢の乱れがあったので、『姿勢矯正ストレッチ』をさせました。結弦は『なんで?』という顔をしていましたが『だまってやれ!』と(笑)。姿勢が悪くなると、首が本来の位置ではなく前に傾きます。そのため首の筋肉が硬くなります。そのコリを解消しながら、首を正しい位置に戻すのです」
羽生の精神力の強さにも「美姿勢トレーニング」が生きていると、菊地さんはこう語る。
「不安だったり、逆に意気込みすぎたりすると、骨盤が後ろに倒れてしまい姿勢の悪化を招きます。2連覇がかかった平昌五輪では、結弦の骨盤の位置が少しずれていました。本番前の結弦に指示したのが『菊地流腹筋』の運動です。本人もちょっとした体の異変を感じていたようで、黙々と続けていました」
■骨盤の歪みを解消する「菊地流腹筋」
(1)テーブルなどに手をつき、背筋が伸びるように、足をテーブルから離す。手の幅は肩幅に。
(2)息を吐きながら、足を内側にねじりながら引き上げる。同時にひじを曲げる。息を吸いながら、最初の姿勢に戻る。右足と左足を交互に、計4回ほど行う。
「体を大きくねじることで骨盤の位置が整い、背筋がスーッと伸びます。気管が広がり呼吸が深くなるリラックス効果もあり、自信をもって演技に臨めたのです」
あんなジャンプはできないけれど、菊地さんの「エクササイズ」で、ゆづの美姿勢を手に入れよう。
「女性自身」2020年2月18日号 掲載