■ブレードは“希望の象徴”
フィギュアスケート評論家の佐野稔さんは、フィギュア選手にとってのブレードの重要性について、
「武士にとっての刀のようなものです。研ぐ前と研いだ後で滑る感覚が劇的に変わることもあるので、メンテナンスは大事。誰に研いでもらうか、こだわりのある選手にとっては重要だと思います」
羽生が吉田さんに研磨をお願いし続けるのは、ただ“腕がいいから”というわけではないように思える、と前出のスケート関係者。
「羽生選手は“エッジ(ブレードの刃の部分)は命よりも大切かも”と言っていました。彼は試合前にブレードのカバーに“大事なブレードを守ってくれてありがとう”と祈りをささげるルーティンをするんですが、このとき脳裏には吉田さんや、奥さまである奈々美コーチ、そして被災地のことが頭に浮かんでいると思うんです」
羽生とブレードについて、次のようなエピソードもあると続ける。
「10年前の震災から数日間、羽生選手は“こんな状況でスケートのことを考えてはいけない”と思っていたようです。被災時にスケート靴のまま外に出たことでブレードもボロボロになってしまって……。でもお母さんが『スケート靴を修理しよう』と言ってくれたことで、再びスケートに向き合うことができたそうです。ブレードは“何度でも前を向く”という希望の象徴でもあるのかもしれません」
被災地への思いを“魂のブレード”に込めて、来る世界選手権に挑む羽生。狙うは“王座奪還”だ。
「大会には彼が現在2連敗中のネイサン・チェン選手(21)も参戦します。熱の入ったパフォーマンスで雪辱を果たしてくれることでしょう」(前出・スケート関係者)
“東北の力”の結集で、羽生の技にも磨きがかかることだろう。
「女性自身」2021年3月23日・30日合併号 掲載